関連ミッション
- ミッション2 太陽エネルギー変換・高度利用
- ミッション3 宇宙生存環境
研究概要
通信やリモートセンシング、測地や電波天文学、衛星の軌道決定、無線送電など様々な用途にアンテナは使われている。望まれるビーム形状と使用できる周波数は様々であるが、科学観測や通信用途では高い角度分解能(=鋭い指向性、あるいはビーム幅が狭いこと)と「綺麗な」ビームが望まれる。アンテナを広帯域化できれば様々な用途を兼用できるし、熱放射などの(放射する周波数範囲が広いと言う意味での)連続波の観測では感度が向上する。「綺麗な」ビームとはビーム形状が軸対称かつ交差偏波やサイドローブが少ないことだが、どちらも市販の広帯域アンテナであるオープンバウンダリ型のクワッドリッジアンテナやログペリアンテナでは原理的に実現できない。そもそも広い帯域にわたってビーム形状の変動を抑えること自体が難しい上に開発期間や製作コスト、重量も実用面では重要である。前職ではこれらの点で原理的に有望な開口面コルゲートホーンやマルチモードホーンをもとに広帯域化(3.2–16 GHz)を図り、VLBI(超長基線干渉計)による日本とイタリア間(=ほぼ地球の端と端)での光格子時計の周波数比較を世界で初めて実現した(*)。
今年度は欧州の電波望遠鏡のための広帯域フィード(1.5–15.5 GHz)や大気中の水蒸気分布の精密測定とVLBI観測を兼ねた可搬型広帯域アンテナ(16–64 GHz)の開発(科研費21H04524)に取り組みながら、様々な用途に使える設計自由度の高い広帯域アンテナの開発に取り組んでいる。前者はNICT鹿島34 mアンテナのような古い大型カセグレンアンテナのアップグレード用である。後者は小型パラボラや既存の電波望遠鏡に搭載して従来より桁違いの高解像度で大気中の水蒸気分布を計測する次世代のマイクロ波放射計である(図)。22 GHz帯の水蒸気のスペクトラムだけでなく、これに重なる30 GHz帯の雲中の水滴や50 GHz帯の酸素のスペクトラムも測地や電波天文、衛星の軌道決定などのVLBI観測と同時かつ同一視線方向で観測することで誤差を減らし、観測精度の改善を狙うものである。
これを地球の水と熱の循環を担う火山の噴煙や線状降水帯の観測に使えば、地球物理の理解やジオハザードの軽減にも貢献できるだろうし、将来は小型探査機用の万能アンテナを実現したい。遮断特性の良いOMTと組み合わせれば多種多様な観測と通信だけでなく、親機からの電力受電アンテナも1本化でき、探査機の容積・重量が大幅に節約できる。特に太陽電池の発電電力が乏しい永久影の中や、外惑星の衛星、雲の下の探査などに有益だろうし、打ち上げ後の観測・通信周波数の変更も容易になる。「万能」アンテナで、これまでの不可能を可能にする観測・無線システムを構築していきたい。
* “Intercontinental comparison of optical atomic clocks through very long baseline interferometry”
Nature Physics, October 2020, Pages:, Pizzocaro, M., Sekido, M., Takefuji, K. Ujihara, H. et al.
DOI: https://doi.org/10.1038/s41567-020-01038-6
ページ先頭へもどる
2021年12月28日作成