生存圏研究所では、人類生存圏の正しい理解(診断)と問題解決(治療)のため、中核研究部の各分野で蓄積された個別の科学的成果を統合して、より深く先進的なレベルで取り組む問題解決型の研究の柱「ミッション」を以下の 4 課題について設定して分野横断的な研究を推進します。
化石資源の活用に基づく 20 世紀の科学と工業の進歩は、先進国における平均的高水準の生活をもたらしたが、その反面、急激な地球環境の悪化をも招き、最近では地球温暖化やオゾンホールといった大域的な変動をさす用語が一般化するほどになってきた。この状態がこのまま進行すれば、今世紀半ばには、エネルギー資源の枯渇、地球温暖化、廃棄物の大量発生などの深刻な問題が地球規模で生じ、人類の存続すら危ぶまれる事態に陥ることは疑いない。
そこで、われわれの生存圏である地球を健全な状態で存続させるには、科学的な事実の認識と処方箋(対応策)の開発に基づき、再生資源依存型の循環型社会を構築することが必要不可欠である。
ここで、再生可能資源の内、最も多量に存在する木質資源は、森林で生産される。従って、地球環境の精査に基づき、森林の回復保全と汚染環境の改善を果たしつつ、持続的に木質資源を蓄積・利活用するシステムを構築するという、地球再生プランの具体化が全地球的に切望されている。
生存圏研究所の一方の前身である宙空電波科学研究センターにおいては、MU レーダー、衛星、ロケット、バルーンなどを用いた観測によって、地表近くから電離圏に至る地球大気全体の研究が活発に行なわれてきた。もう一方の前身である木質科学研究所では、木質の遺伝子生化学研究と木材資源の有効利用の研究開発が長年にわたって実施されてきた。本プロジェクトでは、これらの研究をより深化させ、融合させることで環境計測と地球再生の科学を推進し、上記の社会的要請に応えることを目的としている。具体的には、生存圏研究所の海外研究拠点を活用して地球大気運動の駆動域と言うべき赤道域大気の観測・研究を推進し、新たな大気のアクティブリモートセンシングの研究開発を通じて地球環境の精査に資する。さらに森林保全とそれに必要な環境変化のモニタリング、さらにバイオサイエンスを基盤とした木本植物の環境応答パターンのプロファイリングを行ない、木質資源の永続的生産利用システム構築の基盤を確立する。
本プロジェクトにより、まず「生存圏」環境の現状と変動に関する認識が飛躍的に深められる。次いで、これを基に、環境を保全しつつ持続的に木質資源を蓄積・利活用するシステムの基盤が構築される。すなわち、将来必ず必要となる循環型社会の構築基盤が確立すると期待される。
地球は、物質的にはほぼ閉じた系であるが、エネルギー的には太陽からの輻射などによる流入があり、閉じた系(孤立系)ではない。地球上の生物の生存はこの太陽輻射エネルギーに直接・間接的に依存している。人間の活動を支えるエネルギーもその大半が太陽エネルギーによるものである。石油に代表される化石燃料は過去の太陽エネルギーの堆積物であるため、その使用により、蓄積された二酸化炭素が放出され、現在の炭素循環系に余分な付加を与え、深刻な地球温暖化問題を引き起こしている。人類が継続的に発展していく為には炭素循環の平衡を壊さないよう、太陽エネルギーの変換・利用によるクリーンエネルギーの有効活用を積極的に推進する必要がある。また、地球人口の爆発的増大のため今世紀中盤以降には人類の経済活動に見合うエネルギーを化石資源から供給できないと予想されており、社会基盤を化石資源の消費から、再生産可能な太陽エネルギーの変換利用に転換することが強く求められている。
本ミッションは太陽エネルギー変換・利用手法を多角的に研究し、将来の循環系社会に有用なエネルギーのベストミックスを目指し、化石資源に依存した社会からの脱却をはかることにある。原子力発電に頼る現在の日本の将来エネルギー供給構想は、現状で考えうるエネルギーのベストミックスという観点では優位であるが、数十年先を考えた場合、逆にエネルギー源が単一化し、様々な問題が生じる。将来の循環型社会を支えるエネルギー源としては様々なものがあるが、本ミッションではまず宇宙太陽発電所 SPS の研究と、光合成による炭素固定化物である木質系バイオマスのエネルギー・化学資源変換を推進する。
化石資源の変換技術に依存した 20 世紀の文明が、地球環境に深刻な打撃を与え、同時に資源枯渇による社会基盤の崩壊の危機を招いている。太陽エネルギーの輻射を利用した持続的な社会の構築は、21 世紀に課せられた最重要課題である。宇宙太陽発電所 SPS はクリーンでかつ巨大基幹エネルギー源となり得る次世代発電法であり、化石資源の消費量を減らす効果と共に二酸化炭素排出量を減少させ、京都議定書を実現するための有効な将来システムである。また、木質バイオマスの利用は、木材をエネルギー・化学成分として利用することにより化石資源の消費量を減らす効果を生むばかりでなく、木材の変換プロセスから生まれた経済的恩恵を再び森林バイオマスの育成に還元するという循環型社会の構築に貢献する。
宇宙空間、特に地球周辺での宇宙空間は、21 世紀の人類の新たな生活圏として開拓が進められていく領域である。これは、既に利用が開始されている通信衛星や気象衛星などによる宇宙空間の利用を更に発展させ、宇宙ステーション、月面基地など人間の生活空間として宇宙空間を捉えていくということである。しかし、その宇宙空間は地球上とはまったく異なった環境にある。それは、希薄で高温のプラズマ大気、無重力、太陽輻射の直接暴露などに代表され、人類がそこを生活圏として利用していくには、調査しておかなければならない問題は多い。特に、電離気体であるプラズマ大気の影響による電磁環境の変化、太陽輻射の影響による物資の材質変化、及び生物体への影響の調査などは重要である。また、宇宙ステーションや宇宙太陽発電所(SPS)などによる人工的な宇宙環境擾乱の定量的理解も急務である。一方、逆に、これらの特殊な環境を利用した新たな素材の開発なども宇宙環境の利用という観点でユニークである。宇宙空間という特殊・特異な領域の環境探査、そして、その特殊環境の利用による新技術・素材の開発などを通して、人類生活基盤の拡充、充実への貢献が期待されている。宇宙空間へのロケットなどによる物資・人間の輸送技術が確立されつつある現在、新生活圏としての宇宙はその本格的な利用へ向けて期待が高まっている。
本ミッションでは、人類の生活圏を宇宙に拡大していくにあたって必要となる宇宙環境の探査及びその探査技術の開発および計算機シミュレーションによる宇宙自然環境や飛翔体環境の定量解析を行なうことにより、人類の本格的な宇宙進出の準備を整えるとともに、宇宙という特殊な環境を利用した新たな木質素材の開発、宇宙環境下での木質素材の利用方法の開発などを行なうことを通じて、現在、未来の人類の生活圏拡大とその基盤の充実に貢献していくことを目的とする。
人類の生活規模の拡大により、人類全体で必要としているエネルギー量、資源量、およびその空間は増加の一途をたどっている。このような状態を打破する一つの方法が宇宙空間への生活圏の拡大である。しかし、宇宙空間は地上とはまったく異なった環境下にあり、生活圏拡大をはかるために、精密な探査・調査が必須である。また、その特殊環境を逆に利用した新木質素材の開発などは、直接人間生活の充実にフィードバックをかけることができる重要な研究テーマであり、その意義は非常に大きい。
21 世紀は「化石資源依存型社会から生物資源依存型社会へ」大きなパラダイムの転換が求められている時代である。環境汚染、資源枯渇など、現代社会が抱える問題を克服して人類の生存圏を確保するには、森林・食糧資源などの生物資源の理想的な物質循環システムの構築が必要不可欠になっている。とりわけ、森林(木質)は再生産可能な生物資源の中で生産量が最も多く、生命圏の炭素および水循環の重要な一翼を担っている。その生産過程では水土を保全し、二酸化炭素を吸収して酸素を供給するなど、多面的、公益的な機能を発揮する。また、材料変換に要する加工エネルギーが小さく、比強度、耐久性に富み、人間に対する親和性に優れているばかりでなく、廃棄に際しては公害を発生しない。このように木質資源は本質的に環境負荷が小さく、再生可能な資源ではあるが、人間活動の増大に伴って、近年、毎年 1 200 万ヘクタールの割合で森林面積が減少を続けており、資源枯渇の危機に直面している。
本研究ミッションの目的は、木質資源の生産、加工、利用、廃棄に至る各段階の低環境負荷型要素技術を開発することにあり、さらに、各段階のカスケード型リサイクル利用技術を加え、これらを有機的に結合した複合循環的な木質生産利用システムを新たに確立することにある。また、将来においては、宇宙開放系でも利用可能な循環型資源材料の開発をマイクロ波を用いた新手法の導入などによって行なう。
本研究ミッションの遂行によって、木質の生産→消費→廃棄→再利用がループを形成する資源循環システムを構築することが可能となり、地球の環境保全と資源利用の調和を図りながら、持続的循環型社会の構築に寄与することができる。さらに地球閉鎖系での資源循環型社会を発展させ、宇宙開放系に適用することによって拡大する人間活動を支える新たな生存圏循環型社会への実現に向けた展開が期待される。