世界の森林資源は、人為的活動に毎年排出される炭素量(主にCO2)の約3割もバイオマスに固定し、地球温暖化の緩和の中では重要な役割を果たしている。近年、世界中に設置されたタワーネットワーク(AsiaFluxなど)が各地域の森林の炭素吸収量(gross primary production・GPP)と炭素放出量(ecosystem respiration・RE)を観測し、その差から森林における炭素固定量(net ecosystem production・NEP)を推定している。しかし、NEP動態の要因を理解するために、及び地球温暖化に伴う環境変動の影響を受けた将来のNEPを予測するためには、NEPデータの上で、生産・分解・呼吸・浸出といったGPP・RE・NEPを駆動するプロセスの解明が不可欠である。
温帯林を占める樹種の大半がアーバスキュラー菌根菌(arbuscular mycorrhizal・AM菌)または外生菌根菌(ectomycorrhizal・EM菌)と共生する。共生関係においては、光合成によって吸収した炭素を樹木が菌根菌に供給する代わりに、菌根菌は土壌から吸収した無機栄養素を樹木に提供する。その資源交換により、菌根菌が森林GPPの中で2割までも占める。また、森林を優占する菌根タイプ(AM・EM)により、森林土壌の炭素貯留の大きさと分布が異なることが近年に発表された。よって、森林GPP・RE・NEPを駆動するプロセスの中では、菌根菌の生産・分解・呼吸・浸出が重要であると考えられる。
従来研究は、菌根菌バイオマスの大半を占める根外菌糸(extraradical mycorrhizal fungi・EMH)の生産・分解に焦点を与え、土壌サンプルやメッシュバッグを用い、長年にわたり世界中の森林における月間や年間のEMH生産・分解量を推定した。しかし、森林のGPPやREは一時間や一日でも大きく変化し、森林土壌内のEMHバイオマスは数日間で急速に生産・分解されることがある。よって、EMHの生産・分解プロセスと森林GPP・RE・NEPの連関を明らかにするためには、EMH生産・分解を従来研究よりも短い時間スケールで測定することが必要である。
本研究では、(1)高解像度のフラットベッドスキャナーを用い、EMH生産・分解を観察するための土壌スキャナーを開発し、(2)森林GPP・REが観測されるAsiaFluxネットワークの数サイト(AM優占の森林・EM優占の森林)において、一日ごとのEMH生産・分解を測定し、(3)EMHの生産・分解プロセスと森林GPP・RE・NEPの連関を解明することを目的とする。
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2020年12月21日作成