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2025(令和7) 年度 生存圏科学 12

更新日: 2025/08/18

研究課題

コケ植物ゼニゴケの生殖組織における細胞外ポリマーの生理学的意義の解明

研究組織

 代表者 巽 奏 (京都大学生存圏研究所)
 共同研究者 梶川 昌孝 (近畿大学生物理工学部)

研究概要

ゼニゴケ (Marchantia polymorpha) は人家の周辺などでごく普通に見られ、地面を這うようにして生育する雌雄異種のコケ植物の1種であり、コケ植物苔類に分類される(図1)。このコケ植物苔類は、現在最も繁栄している種子植物と共通の祖先を有しながら、陸上植物進化のかなり基部で分岐した植物系統群である。植物が陸上に進出してから5億年、どのようにして過酷な陸上に適応し、多様な進化を遂げたのか、その進化の履歴について、コケ植物苔類と、これまで植物分子生物学のモデルであった種子植物シロイヌナズナを比較解析することで、分子レベルで迫ることができるため、ゼニゴケはモデル植物として植物生理学分野、特に陸上植物の進化発生学分野において注目されている。

植物が陸上に進出する過程で獲得した能力のうち最たるものに、新たな代謝産物の獲得が挙げられる。その中でも脂肪酸と芳香族化合物の重合体である細胞外ポリマーは乾燥や紫外線から植物自身を保護するために陸上環境での生育に必要不可欠であった重要な代謝産物である。この細胞外ポリマーを生合成する能力は代々受け継がれ、現生の被子植物シロイヌナズナは最外層の表面、根の内部、花粉、二次細胞壁に細胞外ポリマーとしてクチン、スベリン、スポロポレニン、リグニンをそれぞれ蓄積する。近年の研究から、陸上植物のより基部で分岐したコケ植物やシダ植物も細胞外ポリマーを有すること、その生合成経路の中核は陸上植物間で保存されていることが示された。またポリマーを構成するモノマーの分子種の種類や数は植物ごとに多様であり、陸上植物の進化と密接に関連することが推測されている (Weng et al., 2008 Plant Cell; Renault et al., 2019)。しかし、シロイヌナズナ以外の各植物系統における細胞外ポリマーの詳しい化学組成や生理学的意義は不明な点が多い。そこで本研究では、コケ植物ゼニゴケの生殖組織の細胞外ポリマーの生理学的意義を明らかにすることを目的とする。細胞外ポリマーは脂肪酸と芳香族化合物が高度に重合したポリマーであり、光合成を介して固定された太陽エネルギーと二酸化炭素を主原料とする高機能なバイオマスである。本研究でゼニゴケの細胞外ポリマーの組成と機能を解明することで、約2万種からなる大きな植物群であるコケ植物が、進化の過程でどのような細胞外ポリマーを獲得することで繁栄してきたのか、その代謝戦略および生殖戦略の一端を明らかにする。これは森林圏における太陽エネルギー循環および変換システムの理解に繋がることが期待される

補足テキスト: 2025(令和7)年度生存圏ミッション研究#12

 

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2025年8月7日作成

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