研究課題
水中プラズマとファインバブルの組み合わせによる水処理技術の開発
研究組織
代表者 | 高橋 克幸 (岩手大学理工学部) |
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共同研究者 | 上田 義勝 (京都大学生存圏研究所) 石川 奈緒 (岩手大学理工学部) |
関連ミッション |
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研究概要
水に混入した難分解性化合物の分解は、環境水、下水、畜産排水の処理に限らず、水耕栽培用培養液や食品工場で使用される洗浄水など、広範な分野で必要とされている。しかし、既存技術ではコストや反応速度、薬品投与に伴う排水や作業者への毒性など多くの課題があり、革新的な新技術の開発が急務である。
水中に浸漬した針状電極に高電圧パルスを印加することで、水を直接プラズマ化できる(図1)。このプラズマでは、1025 m-3オーダーの高密度電子やヒドロキシラジカル(OH)などの化学的活性種を水中に直接・瞬時に発生できる。また、プラズマ進展時の先端では高電界が生じ、強い衝撃波が形成されることで高速の殺菌効果が得られる。さらに、液面上に設置した電極を用いて生成される気液界面プラズマ(図2)は、ラジカルの生成・供給効率が高く、溶存する難分解性有機化合物の分解に適している。これらのプラズマ処理方式は、電気エネルギーのみで作動し、pH調整などの前処理が不要で、その場で局所的に高密度ラジカルを直接生成できるなど、高い制御性を有する。
このようなプラズマ生成場において、ファインバブルを液中に導入すると、水中プラズマの形成に必要な絶縁破壊電圧が著しく低下し、ラジカルの生成効率が飛躍的に向上する(図3)。さらに、有機フッ素化合物のような疎水性かつ有害な有機化合物を気泡表面に集めることで、局所濃度を高め、プラズマとの反応性を向上させることで、汚水処理効率の大幅な向上が期待できる。
以上の背景から、本研究では、水中においてプラズマを発生させて生成したラジカルを利用し、溶存する難分解性化合物を高効率で分解可能とする水処理技術の開発を目的とする。具体的には、ファインバブル導入によるラジカルの供給・輸送過程を明らかにする。また、ファインバブルの特性を活用して有機フッ素化合物を気泡表面に局所化させ、プラズマ処理による分解効率を向上させる新たな複合技術を開発する。さらに、実用化を視野に、バッチ処理だけでなく循環系に電極を組み込んだ場合の処理特性の向上を検討する。ここでは、ファインバブル発生装置の排出液をスロープに送り出し流水することで、任意の厚さとした液膜を準備し、液膜直上で気液界面プラズマを発生することで処理を行う。ここでは、気液界面プラズマによって引き起こされる液面の変位などを、高速度カメラを用いて評価すると共に、周波数やエネルギー密度などによる影響を明らかにする。
本研究は、国際的にも注目されるプラズマとファインバブルの組み合わせによって相乗効果を得て、従来技術の課題を克服し、これまでにない革新的な水処理技術の確立を目指すものである。水処理技術は、人間生活圏における水資源の確保や環境制御、従来の薬品投与型技術の抱える健康リスクの低減のみならず、将来的には宇宙空間での生活環境構築にも寄与し得る。さらに、プラズマおよびファインバブルは、再生可能エネルギーを用いた発生が可能であるため、インフラが未整備な地域においても、持続可能かつ自立的な運用が可能であり、汎用性が高い水処理技術の確立に貢献する。そして、電気工学(高電圧とプラズマの発生)、機械工学(ファインバブルの形成)とともに、環境工学、農学、食品工学など広い分野との横断研究につなげていく。本研究で得られた成果をもとに、先進的な水処理を日本独自の技術として開発・確立し、発展途上国などにおける多様な環境での応用性評価、利用拡大を図るとともに世界に発信することで、持続可能な社会の構築と、生存圏科学の発展に寄与する。
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2025年8月20日作成