menu

2025(令和7) 年度 生存圏科学 共同研究 7

更新日: 2025/08/04

研究課題

持続可能な社会に向けた租税政策の実証研究

研究組織

 代表者 河瀬 豊 (神戸学院大学大学 経営学部)
 共同研究者 西村耕司 (京都大学 生存圏研究所)
関連ミッション
  • ミッション1 環境診断・循環機能制御
  • ミッション4 循環材料・環境共生システム
  • ミッション5 高品位生存圏

研究概要

1.研究の目的と概要
人類共通の課題と持続可能社会の構築を目標として、さらなる技術開発と我々の意識・行動様式の変容を両輪とする社会変革が期待されている。しかし、これらはいずれも市場原理に基づく自由競争のみで達成することは困難であり、法規制や税制による誘導が不可欠である。本研究では、各種租税について所期の効果が得られたか否かを検証する評価手法を構築することを目指す。例えば、環境税など環境を保護するための租税政策についても、国民に負担を課している以上、当然にその有効性を検証する必要がある。しかし、その多くは客観的・定量的な評価をしないまま課税が継続されており、その効果の程度は不明である。有効な政策評価手法の開発・提案は持続可能社会(サステナビリティ)の構築に向けて不可欠なものであり、生存圏科学における基礎科学技術の研究と対をなすもう一つの柱と考える。また、本課題のような社会科学的研究では、評価に係るパラメータの候補が数百〜数千となることが通常であり、これは近年遍く普及が進む機械学習的アプローチとの親和性が高い。この観点からも、本研究で実施する統計的解析手法の開発は、自然科学的諸研究と互恵的なものである。

2.今年度の計画
幅広く租税政策の有効性を定量的に検証することを目的とするが、今年度は特に下記の2点に注力する。

(1) 住宅ローン税制の有効性の一般化
課税が優遇される資産については、市場により、その優遇制度が存在しない場合よりも高い価格で取引される。このように優遇税制により、価格が高くなった部分を暗黙の税、または、伏在税(implicit taxes)と呼ばれる。また、暗黙の税が資産価格に上乗せされる現象を税の資本化(tax capitalization)と呼ばれる。住宅ローン控除のように所得税が軽減される制度については、そのメリットの一部について、売り手が価格に上乗せし、住宅価格が高くなる。制度により高くなった金額を暗黙の税、減税分の一部が価格に転嫁される現象が税の資本化である。このように税制が市場価格に影響を及ぼす以上、その運用のあり方は単なる財政措置にとどまらず、住宅市場や人々の生活にも直接的な影響を及ぼす。したがって、適切な租税制度の設計・運用と住宅が適正な価格で取引される市場環境を確保することは、人間の生存と生活の質に直結する重要な課題である。
昨年度に得られた住宅ローン控除税制による暗黙の税(implicit taxes)の資本化効果の分析結果を基礎として、全国の都道府県別取引価格データと税制との関係を統合する。これまでの研究成果を全国展開するにあたり、地域毎に不動産価格を推計するモデルが異なる可能性が高い。そこで、従来の重回帰分析をさらに発展させ、階層ベイズモデル、空間計量経済モデルを導入し、地域別・住宅タイプ別の価格転嫁率と受益配分構造を精緻に推定する。

(2) 環境関連税制
環境関連税制については、その多くが全国一律の税率設定であるため、政策導入効果の精緻な検証が困難である。そこで、都道府県別の環境関連税負担額とCO2排出量の関係に着目し、当該税制による実質的な排出抑制効果を検証する。また、地域間で制度の採用状況と導入時期が異なる森林環境税をとりあげ、当該制度が実際に森林保護に寄与しているか否かを検証する。なお、(1)で培われた空間計量経済モデル等を含む統計手法を応用し、環境関連税制の実証分析にも展開する。これにより、研究全体として統一的な方法論に基づく成果を蓄積する。
本研究により、租税政策の有効性を検証し、持続可能な設計に向けた実証的基盤を提供することを目指す。

 

ページ先頭へもどる
2025年7月29日作成

一つ前のページへもどる

〒 611-0011 京都府宇治市五ヶ庄
TEL: 0774-38-3346 FAX: 0774-38-3600
E-mail: webmaster@rish.kyoto-u.ac.jp