研究課題
ムラサキの脂質輸送装置を利用した植物細胞における代謝産物の輸送エンジニアリング
研究組織
代表者 | 市野 琢爾 (神戸薬科大学) |
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共同研究者 | 杉山 暁史 (京都大学生存圏研究所) 矢﨑 一史 (京都大学生存圏研究所) |
関連ミッション |
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研究概要
植物は生息環境に適応するため多様な化学構造を有する特化代謝産物を生産している。我々人間は、植物のつくる特化代謝産物を天然由来の生理活性物質として、医薬品原料や機能性成分として利用してきた。地球環境に負荷をかけずにこれらの有用成分を生産することは、持続可能な社会の実現に向けた緊迫な課題の一つである。それ故、微生物や植物細胞を宿主とした代謝工学は化石燃料に依存しない生産法として近年注目を浴びている。一方、これまでの代謝工学では、酵素機能や代謝経路といった代謝生合成の操作に焦点が当てられてきたが、細胞を用いた物質生産においては、生合成のみならず、輸送や蓄積の機能も重要である。とりわけ有用成分となるような特化代謝産物は強力な生理活性や生物活性を有するため、生産している細胞は、これら代謝産物を細胞外あるいは液胞内などへ輸送し、隔離することで自己毒性を回避している。そこで、本研究は、植物細胞が生来有する代謝産物の輸送能力に着目し、細胞の輸送能力を自在に制御することを目的に実施する。
ムラサキ (Lithospermum erythrorhizon) は、日本や中国、韓国に自生するムラサキ科の多年生草本植物である。ムラサキの根は脂溶性の赤色色素シコニンを生産しており、日本では伝統的に生薬「紫根」や染料として生活に密接に関わってきた。ムラサキの細胞は、特化代謝産物シコニンと脂質トリアシルグリセロールを細胞外に多量に分泌している。そこで、これら脂溶性代謝産物の大量分泌を駆動している輸送因子を異種植物に導入することで、異種細胞が有する物質輸送能力が実際に変化するのかどうかを検証する (図)。本研究では、ムラサキから単離した脂質輸送関連遺伝子をタバコ植物 (Nicotiana tabacum) に導入発現させ、タバコが生来生産しているニコチンやテルペン類といった特化代謝産物の細胞外蓄積への影響を評価する。将来的には、細胞が有する代謝産物の輸送能力を自在にカスタマイズすることを通して、環境に負荷をかけない有用成分の増産技術の開発につなげたい。
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2024年8月1日作成