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2021(令和3) 年度 生存圏科学 ミッション研究 14

更新日: 2021/08/04

研究課題

宇宙地球結合系における宇宙空間・地球超高層大気プラズマ粒子の革新的計測技術の基盤開拓

研究組織

 代表者 平原聖文(名古屋大学宇宙地球環境研究所)
 共同研究者 小嶋浩嗣(京都大学生存圏研究所)
横田勝一郎(大阪大学大学院理学系研究科)
関連ミッション
  • ミッション3 宇宙生存環境
  • ミッション5 高品位生存圏

研究概要

地球生存圏はもはや大気圏内に留まらず、地球電磁気圏・超高層大気領域にまで拡大されており、これらの領域に展開される宇宙インフラなくしては現代社会における人類の社会・経済活動は成立し得ない。また、今後10–20年という近未来における国際協同を基盤とした宇宙開発の発展を俯瞰するとき、月・惑星まで生存圏が拡大することは疑う余地はない。この「宇宙生存圏」における科学的・社会的人類活動の基盤・発展を学術的に支えるためには、地球大気圏での定常的な気象観測に相当する宇宙プラズマダイナミクスの直接観測が必須である。このように、宇宙惑星圏まで拡張した生命圏の知的活動の最前線である宇宙環境に分布する宇宙プラズマを、世界初の計測手法で観測するため、広範な荷電粒子種に対して強強度フラックスを照射できるビームラインを独自技術により構築しつつ、独創的・革新的設計に基づく電子イオン同時計測用分析器を開発し、将来探査計画に寄与する。

生存圏という広範な研究分野における普遍的な研究課題の1つは、太陽系における人類活動の始点・拠点としての地球環境と、地球環境を包含する地球近傍宇宙空間との間で生起する領域間結合過程を支配する根本的な物理原理に関する総合的な探求と解明である。これまでの宇宙環境圏探査計画の実績に裏付けられる通り、我々が今後も国際的に高い評価を受け続けるためには、独創的・機動的な探査衛星計画を主体的・継続的に推進しつつ、並行して革新的な計測技術の基盤開拓を遂行することが求められる。また、人類の宇宙進出・恒常的活動の最前線である地球超高層・周辺宇宙空間ダイナミクスを支配する磁化プラズマ粒子は最重要計測対象として考えられており、これらを対象として基盤的計測技術の獲得と計測機器開発環境の構築が実証的探査においては本質的であり、国内外でも希有な粒子計測技術を獲得・活用することを目指す。

宇宙生存圏に分布する宇宙プラズマに関する革新的計測技術の基盤開拓のため、独自考案の先端的計測手法を取り入れた新機軸の宇宙プラズマ分析器に関して、先ずは市販のアプリケーションを用いた数値計算により特性の向上を図る。ここで重要視するのは、宇宙プラズマを構成する電子とイオンの完全同時計測が1台の分析器(センサーヘッド)により達成され小型化・軽量化・省電力化が図れること、宇宙空間において様々な飛翔ベクトルを持つ粒子(電子・イオン)を効率的に観測するために広い視野範囲(平面状あるいは半球状)を有しつつ宇宙機の形態に応じて平面・半球視野のいずれかを選択可能であること、の2点である。

これらの分析器においては、荷電粒子のエネルギーを分析する静電型エネルギー分析部と質量弁別用の飛翔時間計測型質量分析部の2つで構成される。平面視野状の静電型エネルギー分析部に関しては昨年度の研究開発を基礎として試作・試験・改良が進みつつある。特に今年度は入射粒子が電極表面で反射することで生じる雑音を低減するため、曲面電極表面にセレーションを施し、その効果を室内ビームライン実験にて確認する。セレーションの図面とセレーション加工が施された曲面電極の写真を図1・2に示す。

加えて本年度は新たな視野偏向機能を追加することで半球視野を実現する別構造のエネルギー分析部の新規設計・試作も推進する。そのため、電位・荷電粒子軌道計算用の数値シミュレーター(SIMION 8.1)を活用し、軸対称となる2~3次元構造を想定した上で様々な電極構造・電位分布に対して入射粒子の軌道を計算しつつエネルギー分析部としての基本的な性能・特性を数値的に評価する。なお、これらに必要な計算機・ソフトウェア・基本的技法は既に保有している。図3・4に計測原理図とイオン・電子の視野角偏向計算結果を示す。次にCADソフト(Fusion 360無償版)を導入し、設計図面化と精密金属加工による試作器製作を行う。この試作器製作が本年度内に完了すれば、構築・改良中の粒子ビームライン較正実験装置を用いて機能確認・性能評価試験を実施する。昨年度から実施しつつあるビームライン改良により、様々な荷電粒子種のビームを強強度フラックスで安定して照射することが可能となっているため、高いカウントレートにて試験を行うことで雑音低減化の効果を詳細に定量化できる。

これらと並行し、平面状・半球状視野範囲を有する電子・イオン同時計測分析器に適用可能な飛翔時間計測型質量分析部の設計に着手する。エネルギー分析部における設計と同様に、2次元及び3次元の電極構造に対し荷電粒子の飛翔状態を計算し、飛翔時間の分散を最小限に抑える電極構造を設計することで質量分解能を向上させた後、設計図面化と試作器製作に着手する予定である。

平原聖文: 2021(令和3)年度生存圏ミッション研究 図1図1:全平面視野式二重殻型エネルギー分析器のセレーション付き試作器の図面

平原聖文: 2021(令和3)年度生存圏ミッション研究 図2図2:セレーションを施した全平面視野式二重殻型エネルギー分析器の電極部品

平原聖文: 2021(令和3)年度生存圏ミッション研究 図3図3:半球視野掃引式二重殻型エネルギー・質量分析器の原理図

平原聖文: 2021(令和3)年度生存圏ミッション研究 図4図4:半球視野掃引式におけるイオン(上段)・電子(下段)に対する軌道計算例

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2021年8月4日作成

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