研究課題
ダイズ体内のセシウム挙動に関する候補遺伝子の探索
研究組織
代表者 | 二瓶直登(福島大学食農学類) |
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共同研究者 | 杉山暁史(京都大学生存圏研究所) 上田義勝(京都大学生存圏研究所) |
関連ミッション |
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研究概要
東京電力福島第一原発事故により福島県を中心に放射性セシウム(RCs)が沈着し、甚大な被害をもたらした。事故後10年が経ちほとんどの作物ではRCsは検出されない(図1)。ダイズも基準値(100 Bq/kg)以下ではあるが他の作物と比べると100 Bq/kg以下のRCsを検出することが多く(図2)、その生産には特段の注意を要する。申請者はこれまでに共同研究者(杉山,上田)とカリウム輸送体(High affinity K trasporter HAK)や陽イオンの輸送体であるCyclic nucleotide-gated channels(CNGCs)のCs吸収に関する分子メカニズムを明らかにした。一方、ダイズは子実を食する作物であり、最終的には子実中のRCs濃度が重要となる。そのためには、これまで明らかにした吸収メカニズムの他、ダイズへ取り込まれた後の体内でのCs挙動、とりわけ子実への転流メカニズムの解明が重要であるが、ダイズではその検討するほとんどない。
本申請では、ダイズ体内のCsの分布および転流のメカニズムを明らかにするため、根、葉、子実のCs濃度について部位間の濃度比を品種間で比較する。供試品種は、世界および日本のコアコレクション(約200品種)を用いる(図3)。開花期に根と葉、成熟期に子実をサンプリングし、それぞれICP-OES、ICP-MSで133Cs濃度を測定する。測定値から葉/根、実/葉、子実/根を算出し、地下部から地上部、地下部から子実、葉から子実などの移動しやすさの指標とする。ダイズ体内のCsの分布および転流に関わる候補遺伝子を明らかにするため、ダイズ各部位のCs濃度、またこれらの測定値、算出値を用いてゲノムワイド関連解析により、ダイズ体内のCs移行や子実のCs蓄積に関する有用な候補遺伝子の同定を試みる(図4)。
ダイズは世界的に広く栽培されているため、本申請は生存圏全体の問題として世界の食料問題や物質循環へも波及する重要な課題である。更に、本申請は福島大学(ダイズ栽培、Cs測定)、京都大学(根圏環境解析、遺伝子発現解析)各々の長所を活かすことで大学間連携による相乗効果を発揮し、福島県や日本の農業復興に寄与することが大いに期待されるものである。また、本課題は原発事故による放射性物質で汚染した農地での農業復興や、人類生存の存続に課せられた研究課題として重要であり、植物の機能解析から物質循環まで含んでいる。
図1 福島県農産物のRCs濃度推移 図2 各作物の10 Bq/kg以上の割合
(福島県が実施するモニタリング結果より作図)
図3 世界のコアコレクションダイズ
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2021年8月6日作成