研究課題
バイオマスを原料とする効率的水素製造法の開拓
研究組織
代表者 | 藤田健一(京都大学大学院人間・環境学研究科) |
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共同研究者 | 渡辺隆司(京都大学生存圏研究所) 木村智洋(京都大学生存圏研究所) Chen Qu(京都大学エネルギー科学研究科) 松村竹子(有限会社ミネルバライトラボ) |
関連ミッション |
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研究概要
研究目的
近年、低炭素社会実現の観点から水素は理想的なエネルギー源として注目されており、効率的、安全かつ持続可能な水素製造法の開発が求められている。現在、水素は主にメタンをはじめとする枯渇性化石資源の水蒸気改質法によって製造されている。水素製造における原料を再生可能資源へと置き換えていくことは、今後水素社会(脱化石資源社会)の構築を目指すための最重要課題のひとつである。
本研究は、水素製造の原料として、木材や草本などリグノセルロース系バイオマスに着目して遂行する。木材や草本は、入手が容易な再生可能資源であり、これを活用して水素を高効率的に製造する新規手法を開発することの意義は極めて大きい。
また、我が国は世界有数の森林国であり、木質系バイオマスの有効利用はエネルギー自給率の向上にも寄与する。さらに、水素の製造にともなって副生するリグニンは、触媒により構造変化を受けていると推定され、新規材料としての利用も期待される。
研究計画と方法
研究代表者は、精緻に設計されたイリジウム錯体触媒(Fig. 1)を活用し、各種有機資源からの水素製造に関する研究に取り組んできた(例えば、Angew. Chem. Int. Ed., 2015, 54, 9057、ChemCatChem, 2018, 10, 3636など)。水素製造における原料は単純なアルコール類だけにとどまらず、各種多価アルコール類や糖類を用いた研究への展開も進めている。この経緯の中で、イリジウムと協働的に作用するビピリジン系機能性配位子(6,6′-ジヒドロキシ-2,2′-ビピリジン)を導入した高性能イリジウム触媒を合成し、グルコースを原料とする水素製造を水中還流条件下で効率的に実現した。
本研究は、上述の研究を格段に発展させ、分子内に多数のアルコール性水酸基を有するバイオマス資源からの触媒的脱水素化を起こし、高効率的な水素製造を企図するものである。これを実現するために、1)従来よりも高性能な水素製造触媒の設計と合成、2)マイクロ波照射条件下におけるセルロースをはじめとする多糖の脱水素化反応の調査、3)バイオマスからの直接的な水素製造研究を実施する(Fig. 2)。3)では、木質バイオマスであるユーカリ材と草本系バイオマスであるサトウキビバガスをマイクロ波ソルボリシス前処理および微粉砕前処理にかけ、これらの前処理物を酵素や酸による糖化処理なしに水素製造触媒と直接反応させ、水素を製造する研究に取り組む。さらに、水素製造にともなって副生するリグニンの構造を解析し、新規材料としての可能性を評価する。
これらの目的が達成できれば、化石資源に依存しない水素の製造供給法、バイオマスの総合利用法へと発展できる可能性が高く、その学術的インパクトならびに社会への波及効果は甚大となると期待される。
Fig. 1 脱水素化反応用イリジウム錯体触媒
Fig. 2 セルロースの脱水素化反応の模式図
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2019年7月19日作成