研究課題
パラメトリックスピーカーを用いた低騒音型RASSシステムの開発
研究組織
代表者 | 橋口浩之(京都大学生存圏研究所) |
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共同研究者 | 足立アホロ(気象研究所) 矢吹正教(京都大学生存圏研究所) 六車光貴(京都大学生存圏研究所) |
関連ミッション |
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研究概要
近年、集中豪雨など極端な気象現象の頻度が増しているが、極端気象のメカニズムを理解し、天気予報の精度を向上させ、減災を目指すことが重要である。天気予報精度の改善には、数値モデルの高度化とともに、数値モデルに同化する観測データの質・量の向上が大変重要である。大気レーダー(ウィンドプロファイラー; WPRとも呼ばれる)は主に風速の高度プロファイル観測を目的としており、国内では気象庁がWINDASと呼ばれる全国33カ所のWPRから成るネットワークを運用し、観測データは数値予報モデルに同化され日々の天気予報に活用されている。
WPRに音波を併用して気温の高度プロファイルを測定するRASS(Radio Acoustic Sounding System)技術は、一般のラジオゾンデ観測に比べ、高時間分解能で気温の高度分布を測定可能である。これを数値予報モデルにデータ同化できれば、予報精度向上に資すると考えられる。WPRはパルス状の電波を送信し、大気乱流による屈折率変動からの電波散乱(エコー)を検出する。RASSでは、WPR近傍から音波を上空大気に向かって発射し大気密度に疎密を生じさせ,人工的に屈折率変動を作り、そこからのエコーをWPRで検出する。音波面からの後方散乱(RASSエコー)のドップラーシフトから音速を求めることができ、音速と気温の関係式から、各高度における気温が得られる。RASSエコーを検出するには、レーダー波長と音波波長の比が2:1となるブラッグ条件を満たす必要があるため、レーダーの周波数によって、必要となる音波周波数が決まる。WINDASなどの1.3 GHz帯レーダーの場合、音波周波数は3 kHz程度となる。すなわち、RASSでは可聴音域の大出力の音波を使用する必要があり、しばしば横方向への「音漏れ」による騒音が問題になるため、比較的街中に設置されているWINDASでは導入に至っていない。これを解決するため、本課題では、鋭い指向性を持つ超指向性スピーカー(パラメトリックスピーカー)を用いた全天候で使用可能な低騒音型音源を用いたRASSシステムの開発を目的とする。
パラメトリックスピーカーの原理は、空気の非線形性に伴う自己復調作用に基づいている。すなわち、可聴音周波数で変調した超音波を大出力で空気中に発射すると、空気の非線形性により発生する2次波が復調された可聴音に相当するという特性を利用している。発生する可聴音の大きさは、変調(可聴音)周波数の2乗、および超音波出力の2乗に比例する。超音波素子単体の音圧はそれ程大きくできないため、それを数千個使ったアレー構成として、大出力を得る。直進性の強い超音波のアレーにより、鋭い超音波ビームを形成することができるのが特長である。
パラメトリックスピーカーのRASSへの適用を考えた場合、屋外で使用するため、防水性の確保が重要な課題となる。超音波素子自体に防水性がないため、素子を下に向けた反射型のスピーカーシステムを検討する。対流圏では気温が高度とともに下がるため、音波波長は高度とともに短くなる。広い高度範囲でブラッグ条件を満たすためにはFMチャープ信号を用いる必要があるが、その最適な波形(周波数特性)について検討する。
信楽MU観測所のウィンドプロファイラー
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2018年7月19日作成