研究課題
Arase衛星波形観測をベースとした地球内部磁気圏プラズマ波動現象に関する研究
研究組織
代表者 | 小嶋浩嗣(京都大学生存圏研究所) |
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共同研究者 | 笠原禎也(金沢大学総合メディア基盤センター) 臼井英之(神戸大学大学院システム情報学研究科) |
関連ミッション |
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研究概要
2016年に打ち上げられた我が国の科学衛星Araseは、地球の放射線帯を中心とする内部磁気圏の宇宙環境を探査することを目的としている。Arase衛星に搭載されているプラズマ波動観測器(PWE)は、この内部磁気圏で発生しているプラズマ波動を観測している。プラズマ波動がもつ属性、「振幅」、「周波数」、「位相」、「波数」のうちArase衛星は「波数」以外のすべての属性を捉えることのできる観測器「波形捕捉受信器」を搭載している。しかも、他の衛星の波形捕捉受信器はそのデータ量の多さから、連続観測が、長くても数分に抑えられてしまうが、Arase衛星では数十分にわたって連続に波形を捉えることのできる装置仕様となっており、他の衛星では得られない「波形レベル」での時間変化や長時間波形を用いた高い周波数分解能解析が可能になっている。そこで本研究ではArase衛星プラズマ波動観測器の強みである波形観測をベースに、下記の2つの内部磁気圏で発生している既知・未知のプラズマ波動現象に対する観測データの解析を行い、その発生メカニズムおよびプラズマ粒子との相互作用プロセスの解明を目的とする。
1. Electron Cyclotron Harmonic wave burst (ECH burst)
その波動周波数スペクトルが、電子のサイクロトロン周波数の間隔で高調波構造をもつこの波動は、通常は時間的に連続で微弱なエミッションとして存在するが、突発的にその強度が数10倍に拡大する現象がArase衛星で頻繁にみられている。一般的に10 keV以下の電子とエネルギーの効率的に授受すると考えられているこの波動であるがそのBurst的変化については未解明な点が多い。図 1はArase衛星が観測に成功したECH burstの波形である。ECH burstはその高調波構造が時間とともに変化していく特徴もあり、このような波形観測で捉えることは、波動がもつ属性の非常に速い時間変化を解析する上で非常に重要である。本研究では、波形観測によりECH burstを捉えることのできているイベントを抽出後、イベント毎の特徴と波形によるミリ秒オーダーの高速時間変化の状況をまず把握する。エネルギー授受を行うことのできる電子エネルギーについては、観測結果から理論的に計算できるが、そのエネルギー帯と電子観測との比較も重要である。
2. Unidentified Broadband Emission (UBE)
Arase衛星は観測を開始して、1年ほどを経過した。その間のプラズマ波動観測には、以前よりその存在が知られているプラズマ波動に加え、これまで知られていないと考えられる比較的広帯域のスペクトル構造をもつプラズマ波動が観測されている。帯域が広い波動については、波形とスペクトルが一対一に対応しないため、スペクトルだけで現象を論じるのは危険である。Arase衛星の波形観測データは、この広帯域波動に対してもその細かな波形構造も含めた解析を可能とする。広帯域波動の解釈の難点は、そのスペクトルがプラズマを特徴づける周波数をまたいで存在してしまうことにあるが、波形を観測することによって、その原因も明らかにすることができる。本研究では、UBEと呼べる現象を1年間にわたる観測データから抽出し、波形観測が成功している例について、詳細な解析を行う。
図 1: Arase衛星が観測に成功したECH burstの波形.
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2018年8月1日作成