研究課題
ダイズの放射性セシウム吸収解析および福島県における効果的なカリ施肥法の検討
研究組織
代表者 | 二瓶直登(東京大学大学院農学生命科学研究科) |
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共同研究者 | 杉山暁史(京都大学生存圏研究所) 上田義勝(京都大学生存圏研究所) 徳田陽明(京都大学化学研究所) 伊藤嘉昭(京都大学化学研究所) |
関連ミッション |
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研究概要
東日本大震災に伴う東京電力福島第一原発事故により、食糧生産の場である広大な農耕地が放射性物質(主に放射性セシウム)に汚染した。福島県が実施している農産物のモニタリング検査では、事故から4年が経過し基準値(放射性セシウム濃度100 Bq/kg)を超えるものはほとんどないが、ダイズは他の作物より明らかに放射性セシウム濃度が高い傾向がみられる(図)。ダイズは福島県でイネに次ぐ生産量でもあり、ダイズ栽培の再生は、原発事故で汚染された地域の農業の復旧・復興に努め、我が国の食料の安定供給に大きく寄与すると考えられる。
作物のセシウム吸収は、同族元素のカリウムと競合することが知られており、現在福島県では放射性セシウムの低減対策として土壌中の交換性カリ含量を一定以上に高める対策が採られている。しかしダイズの場合、いわゆる外れ値といわれるサンプルも多く、その要因は不明なものが多い。確実にセシウム吸収を抑制するには、ダイズのセシウム吸収パターンを明確にし、どの時期のカリウム施用が効果的か明らかにする必要がある。
本研究課題では、水耕栽培でダイズのセシウム吸収パターンを明らかにするとともに、その結果を参考に、また環境保全も考慮したカリウム施肥のセシウム吸収抑制効果を検証する。さらに、昨年度も実施した低減対策を行っていない圃場における農産物への移行状況調査を行う。
(1)ダイズのセシウム吸収パターンの解析
- ダイズのセシウム吸収における時期別、体内分布等の吸収パターンを検討するため、以下の水耕栽培を実施する。
- ダイズを水耕で栽培し、一定期間(2週間を想定)ごと時期をずらしてセシウム(0.1 µM)を供与する(図 2)。採取した試料は、部位別(地下部、茎、葉、葉柄、莢、子実)に分解し、セシウムおよび他の塩濃度をICP-MSで測定する。
(2)セシウム吸収抑制に効果的なカリウム施肥法の検討
- (1)の水耕栽培で得られた成果を参考に、生育時期別のカリウム追肥のセシウム吸収抑制効果を福島県内の圃場で検討する。
- 環境保全も考慮した基肥の施肥法として、施肥効率の向上が期待できる肥効調節型の肥料を用いた局所(接触)施肥(図3)の効果を検討する。
(3)福島県内における農産物への放射性物質の移行調査
- カリウム施肥など放射性セシウム吸収低減対策を施していない福島県内のほ場(図4)で、放射性セシウムの農産物への移行調査を行う。
- これまでの調査した結果も合わせ、移行状況の経年変化を算出し、今後どの程度まで低減対策を実施しなければならないか等を解析する。
本課題は大学間連携による研究の相乗効果を発揮させるべく、また福島県の復旧・復興に努め、我が国の食料の安定供給につなげていくため、東京大学、京都大学それぞれの長所を活かした試験を行い、データ比較をしながら原理解明を行う予定である。営農再開や安全な農産物生産に向けた対策を講じる本課題は、震災復興に向けた研究だけでなく生存圏全体の問題として、世界の食料問題へも波及する重要な研究課題の一つである。
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2015年7月15日作成