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2015(平成27) 年度 生存圏科学 ミッション研究 14

更新日: 2016/01/05

研究課題

固体NMR およびEXAFSによるセシウム固定化・移行メカニズムの解明

研究組織

 代表者 徳田陽明(京都大学化学研究所)
 共同研究者 上田義勝(京都大学生存圏研究所)
金子俊一(京都大学化学研究所)
関連ミッション
  • ミッション 1 (環境計測・地球再生)

研究概要

福島原発事故由来の放射性セシウムは半減期が比較的長く,土壌から農作物へと移行してしまうと,食物連鎖により上位の生物の内部被曝につながる。そのため,放射性セシウムの土壌への固定化,農作物への移行メカニズムについての理解は,我々の生存圏を守る上で重要な知見である。また,エネルギー確保という観点からも事故へ備えとして理解を深めなければならない。

最新の研究では,同じ放射線量の土壌で栽培したとしても,作物への吸収係数が異なることが報告されている。このことは土壌中でのセシウムの存在状態が異なることを意味しており,固定化や作物への移行メカニズムを理解する上でセシウムの構造情報を知ることは重要である。

環境中に存在するセシウムの量は数ppbよりも小さいため,ある特定の核のみに着目する手法を用いることによってのみ精度良く観察できる。このような場合,放射光施設(Spring-8など)を用いたEXAFSが有効であり,先行研究も行われている。しかしながら,ラボレベルで利用できる手法ではないという問題がある。そこで,我々は元素毎の情報を得ることのできる固体NMRに着目した。強磁場での測定により高いS/N比のスペクトルを得ることができるが,先行研究は極僅かである。我々は,低配位数セシウムは低磁場シフトし,高配位数セシウムは高磁場シフトすることを見いだしている(Minami, Tokuda et al. 2014)。このような知見を利用することによって土壌におけるセシウムイオンの構造情報および固定化についての知見を得ることができると考えた。

本研究では,強磁場下での固体NMRと放射光施設でのEXAFS解析を組み合わせることによって,粘土鉱物,土壌,作物などにおけるセシウムの局所構造解析を行って,固定化や移行のメカニズムに関する知見を得ることを目的とする。
研究目的を達成するため,各項目について下記の点についての検討を行う。

 

課題1「固体NMRによる土壌中のセシウム存在状態の解明」

  • 固定化セシウム,可溶性セシウムの区別
    NMRの線幅に着目することにより,固定化したセシウムと可溶性のセシウムの区別ができる可能性がある。種々の粘土鉱物に対して構造解析を行って,固定化セシウム,可溶性セシウムついての知見を集める。
  • 固定化のダイナミクスについての理解
    NMR観測時の温度を変化させると,イオン交換速度,活性化エネルギーに関しての知見を得ることができる。セシウムの局所的な運動性や移動するサイト同士(どのサイトからどのサイトへ移動するのか)についての知見を得る。
  • 粘土鉱物・土壌に固定化したセシウムの構造解析
    昨年度までに達成している粘土鉱物への固定化の知見を元にして,種々の粘土鉱物,有機物などの土壌を構成する成分中のセシウムの構造解析を行う。短期(1ヶ月以内)~長期(半年程度)の時間経過に伴う構造変化の解析を行う。
  • 粘土鉱物・土壌からの溶出挙動の理解
    種々の粘土鉱物からの溶出挙動についての理解を行う。異なる抽出液(酢酸アンモニウム,塩化カリウムなどセシウム除去に効果のある抽出液)を用いた時の溶出挙動についての理解を行う。

 

課題2「放射光を用いた土壌中のセシウムのEXAFS解析」

  • 粘土鉱物や土壌に固定化したセシウムの構造解析
     課題1で検討を行った試料についてSpring-8のBL14B2においてEXAFS解析を行う。これにより,固定化セシウム,可溶性セシウムの区別,固定化したセシウムの構造解析,溶出挙動の理解を行う。なお,既に予備的な検討によりセシウムの第二,第三配位圏に変化が現れることを見いだしている。
  • 固体NMRで得られた知見との複合的理解
    EXAFSによって得られた結果を,固体NMRで得られた知見と比較することによって,固定化・溶出・移行についてのメカニズムについての考察を進める。過去にも土壌や粘土鉱物のEXAFS解析が行われているが,EXAFS解析には多くの前提条件が必要であるため,結論が相反しているものも散見される。解析に必要となるCs配位数の情報を固体NMR解析によって得られることを利用し,格段の理解を進める。

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2015年8月6日作成

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