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2015(平成27) 年度 生存圏科学 ミッション研究 4

更新日: 2016/01/05

研究課題

惑星流体圏研究のための雲追跡手法の開発

研究組織

 代表者 今村剛(宇宙科学研究所)
 共同研究者 塩谷雅人(京都大学生存圏研究所)
堀之内武(北海道大学地球環境科学研究院)
中村正人(宇宙科学研究所)
祥介(神戸大学理学研究科)
杉山耕一朗(宇宙科学研究所)
村上真也(宇宙科学研究所)
関連ミッション
  • ミッション 1 (環境計測・地球再生)
  • ミッション 3 (宇宙環境・利用)

研究概要

惑星の気候形成過程を理解するために、広く太陽系惑星の流体圏の振る舞いを解明する必要がある。これまでの惑星探査では大気の平均構造の把握に努めたが、今後はその成立に関わるメカニズムの解明に主眼を置く。金星探査機「あかつき」の狙いもここにあり、2015年12月から金星周回軌道上で多波長撮像により大気運動の変動を3次元的に観測する。ここで要となるのが、時間的に連続した雲画像を用いて雲追跡により流体運動を抽出する手法である。本研究では、従来の精度(10 m/s)よりも1桁高い精度(1 m/s)で個々の雲移動ベクトルを求める手法を確立する。このことにより、これまでの探査では平均帯状流の計測を行ってきたのに対して、大気波動など擾乱成分の時空間構造をとらえることを可能にする。こうして初めて、帯状風を駆動する角運動量輸送や、グローバルな物質循環をもたらす子午面循環を理解することができる。このように惑星上の流体力学過程を探査機データを用いて実証的に解明することは、流体圏である生存圏環境の成立とその持続可能性の理解、さらには人類の活動領域の他惑星への拡大のために、重要なステップである。

連続した雲画像から雲移動ベクトルを求める方法として相互相関法の研究を行う。この手法では、1つめの画像において適当な雲領域を設定し、2つめの画像において同じ大きさの領域を縦横にスライドさせて1つめの雲領域との間の相関係数を順次求め、得られた相関曲面の極大の場所を雲塊の移動先と判定する。雲画像には頻繁に類似パターンが現れ、結果として相関曲面に複数の極値が生じ、別の雲塊を同一の雲塊と認識してしまう。このことによる誤差は長年の課題である。従来は人が目で見た印象をもとに間違った解を除去してきたが、これでは客観性を確保できないことに加え、大量のデータに適用するのは難しい。そこで我々の研究グループでは、流れ場の滑らかさを拘束条件により確からしい極値を選ぶ方法(Kouyama et al., PSS, 2012)や、多数の連続画像を組み合わせて精度を高め正しい極値を選ばれやすくする方法(Ikegawa & Horinouchi, Icarus, 投稿中)を提案してきた。これにより、従来よりも数倍高い精度で推定できるようになるなど、我々は自動雲追跡法において世界をリードしつつある。しかし、これまでは一部の紫外画像に試験的に適用したのみであり、最適化と汎用性の確立が必要である。

本研究では、欧州の金星探査機Venus Expressの分光撮像装置によって得られた紫外・可視・赤外の雲画像を活用して上記の手法を検証・改良する。多量のデータを使い、雲領域サイズ依存性等を系統的に調べることで、世界最高精度の手法として確立する。得られた速度場から回転成分や発散成分を抽出し、シアー流中のロスビー波やケルビン波、熱潮汐波の数値解と比較し、速度場を解釈する。これらの成果を欧州のVenus Expressチームとともに吟味し、今後の惑星大気観測における標準的な雲追跡手法として確立して、本研究の成果として公表する。また、雲追跡アルゴリズムを金星探査機「あかつき」のデータ処理パイプラインに組み込み、12月以降は「あかつき」によって得られる多波長の連続グローバル画像も合わせて解析する。3次元速度場の時間変動を可視化し、大気大循環の駆動に関わる擾乱を抽出する。

本研究ではさらに、変分法に基づく雲追跡手法を新たに開発する。ここで用いる変分法は、数値天気予報のためのデータ同化に用いられる4次元変分法と同じタイプのものであるが、時間発展の予測モデルは主に雲の明暗の移動を表す簡単なものとする。相互相関法はこのモデルを暗に仮定しているが、変分法ではそれを陽に定式化し、大域的な最適化問題として解くことで、相互に矛盾の少ない雲移動ベクトルを導くことができる。上記の手法で得られた雲追跡風を初期値として変分法で改良することで、目標精度を達成する。ただし、変分法による雲追跡の確立には誤差共分散設定などに関する試行錯誤が必要であるので、今年度は試験実装に留まる見込みである。

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2015年8月6日作成

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