研究課題
放射性物質の農産物への移行の経年変化と根圏環境が放射性セシウム吸収に及ぼす影響解析
研究組織
代表者 | 二瓶直登 (東京大学大学院農学生命科学研究科) |
---|---|
共同研究者 | 杉山暁史 (京都大学生存圏研究所) 上田義勝 (京都大学生存圏研究所) 徳田陽明 (京都大学化学研究所) 伊藤嘉昭 (京都大学化学研究所) |
関連ミッション |
|
研究概要
東京電力福島第一原子力発電所事故により、放射性物質(本課題では半減期の長い放射性セシウムを対照とする)が福島県を中心に広がり、食糧生産の場である農耕地にも汚染した。事故から 3 年が経過し、農産物は基準値(放射性セシウム濃度 100 Bq/kg)以下がほとんどだが、未だに基準値を超えるサンプルや、一部の地域では出荷制限等の措置がとられている。今後、避難指示が解除される地域で農業が再開されることもあり、見えないものへの不安を取り除くためには、現状の把握と、科学的な吸収メカニズムの解明が求められる。そのため、低減対策を実施していない圃場で放射性物質の移行状況を継続して調査することは非常に貴重な場所であり、移行状況に関する有用なデータが得られるものと考えられる。申請者は平成 25 年度生存圏ミッション研究において、低減対策を実施していない圃場で放射性セシウムの移行状況を報告しており、継続して調査することを地元住民には理解を得ている。また、低減対策として最も多くの地域で行われているにはカリウム施肥だが、土壌中のカリウム濃度が高くても作物の放射性セシウムの吸収が高い「はずれ値」といわれるサンプルもあり、その要因は解明されていない。ほ場内の放射性セシウムや他元素分布は、圃場内で非常に不均一であることを考慮すれば、個々の根圏環境は多様であり、セシウムとカリウム比(イオンバランス)などが吸収に及ぼす影響を検討し、確実に放射性セシウムの吸収を低減する技術の開発が必要である。さらに、穀類のうちダイズは、福島県内の作付面積が約 3000 ha ほどあり、イネとともに重要な土地利用型作物として位置づけられている。しかし、福島県が実施している農産物モニタリングの結果では、他の作物として比較してやや高い値が測定されているが、その要因については未だ不明な点が多い。
本研究課題は、昨年度も実施した低減対策を行っていない圃場における農産物への移行状況調査し、水耕、ポット栽培等を使った試験を行いながら、主にダイズの放射性セシウムの吸収に及ぼす影響と効果的な低減対策を解明していく。この課題は大学間連携による研究の相乗効果を発揮させるべく、また福島県の復旧・復興に努め、我が国の食料の安定供給につなげていくため、東京大学、京都大学それぞれの長所を活かした試験を行い、データ比較をしながら原理解明を行う予定である。
(1)福島県内における農産物への放射性物質の移行調査 (担当 二瓶、上田)
- カリウム施肥など放射性セシウム吸収低減対策を施していない福島県内のほ場で、放射性セシウムの農産物への移行調査を行う。これまでの調査した結果も合わせ、移行状況の経年変化を算出し、今後どの程度まで低減対策を実施しなければならないか等を解析する。
- 採取したサンプルについては、植物サンプルについては東京大学大学院農学生命科学研究科附属放射性同位元素施設において放射性物質の測定を行い、土壌サンプルについては京都大学放射性同位元素センターにおいて同様の測定や、無機成分の分析も行う。
(2)放射性セシウム吸収に関与する根圏環境の影響 (担当 二瓶、徳田、伊藤)
- 根圏環境がセシウム吸収に及ぼす影響を明らかにするため、水耕栽培等で検討する。
- 環境要因として競合するイオン、pH、共生菌の有無等を設定し、吸収量や蓄積部位を比較する。申請者の施設では、半減期 12 時間の 42K も使用できるため、137Csと合わせて同一サンプルに投与し(ダブルトレーサー法)、環境要因がセシウムとカリウムの挙動に及ぼす影響を合わせて解析する。
(3)確実に効果のある放射性セシウム濃度低減対策技術の検討 (担当 二瓶、杉山、上田)
- 放射性セシウムの吸収、移行を確実に低減する効果的なカリウムの施肥法をポット試験や、福島県の現地圃場を用いた栽培試験を実施し、ダイズの放射性セシウム濃度を比較する。
- 通常の化成肥料に加え、作物の成長に合わせて成分が溶出する被覆肥料の可能性や、施肥効率を上げるため根と肥料の位置を極力狭める接触施肥法などを検討する。
ページ先頭へもどる
2014年7月17日作成