研究課題
樹高に伴うヒノキの水ストレスおよび水利用特性の評価
研究組織
代表者 | 小杉緑子 (京都大学農学研究科) |
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共同研究者 | 鎌倉真依 (京都大学農学研究科) 高橋けんし (京都大学生存圏研究所) |
関連ミッション |
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研究概要
スギ・ヒノキ・マツ林(うち 97 % が人工林)といった常緑針葉樹林は、我が国国土の 22 % を占めている(平成 24 年森林資源現況調査)。前世紀から今世紀にかけて蓄積されてきたこの豊富な森林資源は、今日その価値と意義の再評価を迫られている。林業が停滞する中で、「多面的機能」は社会が森林に求める大きなニーズとなった。森林資源が生存圏において果たす様々な役割としても位置付けられる「多面的機能」の多くには、蒸発散・光合成・呼吸などのガス交換が密接に関わっており、常緑針葉樹林をガス交換機能の面から評価することは、我が国の森林資源の再評価において重要な課題である。常緑針葉樹林では、樹高とともに気孔開度を表す群落コンダクタンスが低下することが報告されている(Komatsu et al, 2003)。このことは、林齢・樹高の増加に伴い水ストレスが気孔の閉鎖を引き起こし、やがては光合成の低下と衰退を引き起こすトリガーとなる可能性を示唆しており、常緑針葉樹の水利用特性をキーファクターのひとつとして見ていく必要がある。葉面積あたりの土壌から葉への水輸送速度は、土壌から葉への水の通りやすさ(通水コンダクタンス)と土壌-葉間の水ポテンシャル差の積によって求められる。土壌から葉への通水コンダクタンスは、蒸散速度、土壌および葉の水ポテンシャルを測定することにより求められるため、樹木の水輸送に関しては、これまで、輸送距離の延長や重力勾配といった物理的に増加する水ストレスに対する個体全体としての応答性に研究の主眼が置かれていた。しかし、根と葉を結ぶ水輸送経路となる幹や枝の通水性については測定手段がなく、樹木と水環境との相互作用を、個体内の通水性の制御機構から解明することは、これまで不可能であった。しかし近年、新しく開発されたサイクロメータ―(PSY 水ポテンシャル測定装置)により、従来測定不可能であった幹や枝の水ポテンシャル測定が可能になった。そこで、申請者らは現在、幹の水ポテンシャルの連続観測を世界に先駆けて行っている。このサイクロメータ―を利用した植物体内の詳細な通水性測定を、従来の土壌から葉への通水コンダクタンス測定と組み合わせることにより、樹木体内から葉に至る通導系の制御機構の時間的ダイナミクスを明らかにすることができる。そこで本研究では、土壌・幹・枝・葉・大気における水ポテンシャルの連続モニタリングを通して、樹高に伴うヒノキの水ストレスおよび水利用特性の評価を行う。
土壌-植物-大気連続系(Soil – Plant – Atmosphere – Continuum, SPAC)における水の流れは、植物の光合成能や生長の主要な制限要因となる。SPACにおける水輸送は、土壌-植物―大気への水ポテンシャル勾配によって駆動される。葉面積あたりの土壌から葉への水輸送速度は、土壌から葉への水の通りやすさ(通水コンダクタンス)と土壌-葉間の水ポテンシャル差の積によって求められる。本研究では、樹高の異なるヒノキ個体の土壌・幹・枝・葉各部の通水コンダクタンスと水ポテンシャル差を比較・評価することによって、その水利用特性と水ストレスのトリガーを検証する。AsiaFlux(国際的タワーフラックス観測ネットワーク)サイトの京都大学桐生水文試験地(滋賀県大津市、KEW)を本研究の観測地とし、樹齢 55 年生のヒノキを対象木とする。樹高が異なり、タワーからアクセス可能な数個体を選定し、右図にあるように幹と枝に水ポテンシャル測定器(PSY)を設置する。幹の PSY 上部には樹液流測定器(SFM)を設置し、土壌には土壌水分測定のためのテンシオメーター(STM)を埋設する。また、樹冠内三高度(上層・中層・下層)において、現有の LI6400 を用いた個葉蒸散・光合成速度の測定、プレッシャーチャンバーを用いた葉の水ポテンシャル測定を行う。各サイトで観測している気象データ(日射、降水量、気温、飽差)、樹冠上 H2O 交換量のデータを取得する。各個体の土壌・幹・枝・葉・大気の水ポテンシャルを算出し、SPAC における水の流れを明らかにする。土壌から大気への水ポテンシャル勾配、生理生態学的プロセス、気象データとの関係から、個体内の通水性の変動とその調節機能を明らかにし、個体間で比較する。また、水ポテンシャル-蒸散速度-通水コンダクタンスの関係から、ヒノキの水利用特性を解析する。
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2014年8月8日作成