研究課題
担子菌における炭素代謝リプレッサー遺伝子の解析
研究組織
代表者 | 入江俊一 (滋賀県立大学環境科学部) |
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共同研究者 | 渡辺隆司 (京都大学生存圏研究所) 西村裕志 (京都大学生存圏研究所) 本田与一 (京都大学農学研究科) |
関連ミッション |
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研究概要
木質は地球上で最大級の賦存量を持つバイオマス資源であり、これを多方面で有効利用することは持続可能な循環型社会をデザインする上で非常に重要である。そのためには、省エネルギーで低環境負荷な加工システムの開発が不可欠となり、白色腐朽性の担子菌を利用したバイオリアクター系の開発が急務といわれている。しかし、一般に菌類には炭素代謝抑制機構が存在し、リグニンやセルロースなどの分解には、最終産物濃度などを引き金とした抑制がかかることが障害の一つとなっている。
子嚢菌類を用いた解析において、セルラーゼ遺伝子発現に関与する多くの転写因子が明らかとなっている。cre1/creA (5’-SYGGRG-3’ に結合する C2H2 型ジンクフィンガー構造を持つタンパク質)は、最終産物であるグルコース濃度の上昇に応答して働く炭素代謝リプレッサー遺伝子であり、他の転写因子遺伝子の働きにも影響を与えることが報告されている(Fig. 1)。また、cre1 を欠失した子嚢菌 Trichoderma reesei はグルコースが過剰に存在する培養条件下でもセルラーゼを過剰に生産することが報告されている。しかし、担子菌のセルラーゼ発現における cre1/creA の機能については解析例が存在しない。
我々はこれまでの解析において、白色腐朽性担子菌 Phanerochaete chrysosporium ゲノム配列中における cre1 オーソログ遺伝子の存在と転写活性を確認している。さらに、推定される全セルラーゼ遺伝子群のプロモーター領域に cre1 結合モチーフ(5’-SYGGRG-3’)が存在することも確認した。また、他のグループの報告になるが、白色腐朽性担子菌 Trametes versicolor (カワラタケ)のラッカーゼ遺伝子プロモーター配列にも、cre1 結合モチーフ(5’-SYGGRG-3’)が存在しており、cre1 とリグニン分解との関連も示唆される状況である。
本研究は、白色腐朽性担子菌における炭素代謝リプレッサー遺伝子 cre1/creA とセルロース、及びリグニン分解との関連について調査する。具体的には、トランスジーン、または二本鎖 RNA 直接導入による RNAi により cre1 オーソログ遺伝子の発現を抑制した白色腐朽菌株を作成し、グルコース過剰添加条件でのセルラーゼ活性、およびラッカーゼ活性などを確認する(Fig. 2)。セルロースにレマゾールブリリアントブルー R(RBBR)が結合した構造を持つ Cellulose-Azure を用いたプレートアッセイ系の開発も試みる。酵素活性の過剰発現が確認された場合、抑制株による木質分解性の試験を行い、分解物の構造、分解速度の向上などについて調べ、バイオリアクター系開発に利用可能な木質高分解菌の育種について検討したい。
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2012年7月9日作成