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2012(平成24) 年度 生存圏科学 ミッション研究 2

更新日: 2017/09/20

研究課題

土壌環境によるイオウ結合形態の変動とその評価手法の開発

研究組織

 代表者 伊藤嘉昭 (京都大学化学研究所)
 共同研究者 杉山暁史 (京都大学生存圏研究所)
矢﨑一史 (京都大学生存圏研究所)
整 (独立行政法人物質・材料研究機構)
谷川東子 (独立行政法人森林総合研究所)
関連ミッション
  • ミッション 1 (環境計測・地球再生)

研究概要

大気により負荷されたイオウや窒素の酸化物は、森林土壌(以下、土壌)の酸性化をもたらし森林衰退を引き起こすことが、欧米の調査から示されている。一方我が国では、欧米と同じレベルの酸性負荷物質があるにもかかわらず、土壌は酸性化しないと言われてきた。しかし近年、我が国においても土壌―渓流水系の酸性度やイオウ濃度の上昇が報告され、土壌の耐酸能が限界に達し、酸性雨の長期的影響が顕在化していること、経済発達が著しいアジア大陸で排出されるイオウ・窒素酸化物の飛来(越境大気汚染)が、この現象を加速することが危惧されている。環境省は酸性雨長期モニタリング報告書において「伊自良湖集水域では、過去に大気から沈着し、土壌に蓄積したと考えられる硫黄が渓流に流出するとともに、現在も多量の窒素沈着により集水域の酸性化が継続していると考えられた」と述べている。酸性雨に含まれるイオウ化合物が土壌に入った後、渓流水へ流出するときには土壌養分や有害なアルミニウムを伴うので、土壌によるイオウ保持機能は土壌養分の枯渇と渓流水質の悪化を防止するという意味で、酸を緩衝する意義がある。この土壌の環境保全機能や土壌が受けている酸性雨の影響を評価するためには、土壌環境によるイオウ結合形態の変動を正確に把握すること必要である。しかし土壌中イオウの世界標準分析法である湿式化学分析法はイオウ種を変質させる危険性が高く、より正確な測定法が世界で開発途上中である。

申請者らは先行研究において、材料解析には多くの実績があるものの環境分析への導入は国内外においてほとんど前例がなかった、高分解能 2 結晶分光装置(国内で唯一本格稼働)を用いて、植物体内イオウの状態分析を成功させている。この状態分析法は、試料の乾燥を必要とせず、イオウに関し感度が高いという点で、最先端技術といわれる放射光分析(XAFS法)すら凌駕する。この技術を用い、酸性雨によりダメージを受けている葉組織は健全な葉組織に比べてイオウ組成が異なることを発見した。本申請課題ではこの技術と結果を土壌分野に発展させること、すなわち(1)世界で初めて高分解能 2 結晶分光分析法による土壌中イオウの形態分析法を確立し、(2)流域の酸性化が懸念されている伊自良湖集水域土壌のイオウ結合形態を評価することを目的としている。地球環境問題は生存圏を長期・広域にわたり脅かすため、我々の計測技術を植物から土壌計測へ展開する当課題は、健全な生存圏維持に不可欠な環境情報を確実に把握する基盤技術の確立として位置づけられる。

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2012年8月3日作成

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