研究課題
原子状酸素照射による木質炭素化物の構造変化の解明
研究組織
代表者 | 畑俊充 (京都大学生存圏研究所) |
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共同研究者 | 梶本武志 (和歌山県工業技術センター) 田川雅人 (神戸大学工学研究科) 小嶋浩嗣 (京都大学生存圏研究所) |
関連ミッション |
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研究概要
地上約 700 km 以下の低地球軌道 (LEO) を航行している宇宙機の外表面は原子状酸素に曝露される。原子状酸素は紫外線により酸素分子が解離したもので、反応性が高いことに特徴がある。現在用いられているポリイミドは宇宙環境に強く、高い耐熱性を持つ優れた宇宙用材料だが、原子状酸素に対する耐性が低いため、その耐性向上を目的とした材料開発が求められている。これまで、炭素材料による浸食防止はダイヤモンドライクカーボン (DLC) を用いる試みが行われているが、再生可能な資源である木質からの炭素材料についてはまだ行われていない。木材由来の炭素化物では、原子状酸素の浸食は他材料と同じように受けるものの、結晶性炭素と比較すると劣化が進行しやすい。そこで、本研究では酸化劣化の進行を食い止めるためSiの混入を行う。
宇宙機開発に木質を利用するメリットには、木質炭素化物の体積密度が 1.0~2.0 g/cm3 でありアルミニウムの 2.8 g/cm3 より軽量であること、硬さが炭化ケイ素/木質炭素材料において 400 Hv のためステンレス鋼と同等であること、デブリになりにくいことなどが挙げられる。木質にその構成成分のひとつであり芳香環を多く含むリグニンを用いる場合は、炭化による収率を上げ、炭化物は機械的・熱的に安定で、結晶化及び高配向していないため浸食は連続的に発生を食い止めるという利点がある。さらに、シリコン(Si)を混合することにより原子状酸素による浸食を大幅に食い止めることができる。
申請者等は、これまで Si 混入による浸食を検討し、原子状酸素照射前後の表面化学構造の半定量解析を試みた。しかし、より一層の耐浸食性向上を図るには、微細構造や空隙構造の変化をより詳細に解析し、材料が浸食に対して抵抗性を発揮するための機構解明を行い、得られた結果を最適製造条件へフィードバックすることが必要である。既往の文献において、原子状酸素照射に対する Si の酸化抵抗についての効果について定性的に論じられているが、 SiO2 膜の形成機構やどのような浸食防止保護膜が形成されているかなどについて論じられてはいない。本研究のような、Si の原子状酸素に対する耐浸食性の機構解明を材料の構造から検討した試みは世界初であり、宇宙機材料開発へ大きな貢献が期待される。
木質は光合成で生成される木質材料を活用することで炭素化の際に収率よく製造できるとともに投入するエネルギーが少なくてすむ。生態系における資源の有効活用をはかり、原材料は化石資源から再生可能なバイオマスへの材料転換を試みる。開発品の酸化劣化防止技術は、宇宙圏のみならず地球上での人間生活にも応用できる。宇宙分野と木質分野を融合する上で、生存圏科学に対する貢献も絶大である。
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2010年8月10日作成