研究課題
水中プラズマ・ファインバブル複合方式による植物生長阻害物質の処理技術の開発
研究組織
代表者 | 高橋克幸(岩手大学理工学部システム創成工学科) |
---|---|
共同研究者 | 上田義勝(京都大学生存圏研究所) |
関連ミッション |
|
研究概要
植物栽培において、植物は生長の場を確保するために、根や葉などから、菌や微生物の繁殖の阻害や、他の植物の生長を抑制する有機化合物(植物生長阻害物質)を分泌する。特に、コスト低減を目的とし溶液を循環して繰り返し利用する閉鎖系の養液栽培においては、植物生長阻害物質の高濃度化により、植物の生育が阻害され、収穫量の減少につながる(図1)。しかし、既存技術ではコストや反応速度などにおける課題が多く、革新的な新規技術の開発が急務である。高電圧パルスパワーを用いて水の中でプラズマを発生させ、そこで生成されるヒドロキシラジカルなどの化学的活性種を用いて汚水を処理する水中プラズマ処理方式(図2)は、汚水中の難分解性有機化合物の高速処理が可能でその効果も高く、局所的にかつpHなどに依らず直接生成可能であることなどの利点を持つ(図3)。有機化合物の分解だけではなく、殺菌処理も可能であることから、植物栽培用養液の新規的な処理方法として期待できる。
本研究の目的は、環境分野やバイオ関係への展開が活発なプラズマを水中で発生させ、それにより生成したラジカルを利用した植物生長阻害物質の分解除去による障害発生リスク・栽培コストの低減を可能とする革新的な植物育成環境制御技術の確立することである。プラズマによって生成されたラジカルの、液中への輸送過程と植物生長阻害物質の分解過程を明らかにする。また、ラジカルおよび生長阻害物質の分解過程で生じる化学物質が、植物の生体へ与える作用機序を明らかに、その有効性と安全性を検証する。また、水中プラズマ方式の課題である、エネルギー効率の低さを解決する目的で、ファインバブルを液中に導入することによって、プラズマ生成に関わるエネルギーバランスを改善を可能とする、プラズマとファインバブルの複合方式を開発する。
本研究は、近年、国際的にも注目が高まっている高電圧・プラズマを利用した農業への応用研究において、これまで明らかになっていない、プラズマ生成ラジカルが、栽培用養液や植物の生体に及ぼす作用機序を学術的な面から明らかにすることによって、農産物生産効率の向上を可能とする、新規的な農産物生産環境制御技術を開発することを目的としている。この取り組みは、他に例がなく独自性と新規性が高く、農工の融合連携研究の発展と学理進化に資することができる。本研究で得られた成果をもとに、先進的な農産物生産環境の制御技術を日本独自の技術として開発・確立し、発展途上国や農業大国などにおける多様な環境での応用性評価、利用拡大を図るとともに世界に発信することで、持続可能な社会の構築と、生存圏科学の発展に寄与する。そして、農業従事者の超高齢化や従業者数の減少に伴う、農産物の生産力の低下への歯止めや、農業従事の所得拡大などに貢献することによって、農業における喫緊の課題解決につなげる。
図1 水耕栽培の成長阻害:成長阻害物質のDCBA(2,4-ジクロロ安息香酸)が養液に含まれると、顕著な成長阻害が見られる。
図2 水中放電の様子:電極先端から放電チャネルが進展する。
図3 有機化合物の分解の様子:有機化合物(青色染料)がプラズマ処理によって短時間で分解処理される。
ページ先頭へもどる
2021年8月3日作成