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2016(平成28) 年度 生存圏科学 萌芽研究 10

更新日: 2017/09/22

研究課題

炭素安定同位体パルスラベリングを用いた、アラスカ永久凍土地帯における森林土壌呼吸における樹木由来のCO2放出量の推定 —季節変化に着目して—

研究組織

 代表者 檀浦正子(京都大学大学院地球環境学堂)
 共同研究者 高橋けんし(京都大学生存圏研究所)
恒(信州大学山岳科学研究所)

研究概要

地球温暖化の進行が確実視されており、急激な気候変化が森林を主とする陸上生態系におよぼす影響が危惧されている。亜寒帯林は森林生態系全体の約5割の炭素を蓄積しているため、気候システムに大きな影響を与えうる。加えて高緯度地帯では非常に大きな気温上昇が予測されているため、亜寒帯林における炭素循環変化を理解することは非常に重要である。アラスカでは6月に春を迎え、9月には初雪を観測するが、今年の積雪は例年よりも格段に少なく春が早いと報告されており、実際に温暖化しつつあることが懸念されている。

陸域森林の炭素放出量のうち、土壌から放出される二酸化炭素(土壌呼吸)はその1/2から1/3を占め、炭素循環を考える上で重要な役割をしめている。土壌呼吸は主に根由来の呼吸(独立栄養呼吸)と微生物による分解呼吸(従属栄養呼吸)とからなっており、炭素循環を精度よく推定するためには、由来が異なり、環境応答性も異なる両者を分離する必要がある。

定同位体ラベリング手法は、光合成を利用して13CO2を樹木に吸収させ、人為的に樹木由来の呼吸中の炭素同位体比を変化させることができる。それゆえ、非破壊的に独立栄養呼吸の割合が算出できる。昨年7月に、同位体ラベリングを用いて独立栄養呼吸を分離する実験を行い、この手法の有効性を確認した。そこで本年は春と秋に行い、年間を通して評価することを目標とする。

檀浦正子: 2016(平成28)年度生存圏科学萌芽研究 図

アラスカ州フェアバンクス近郊のCaribou Poker Creek Research Watershedを試験地とする。本試験地は長期生態研究試験サイトとして設定されており、様々な生態的・気象的データがとられている。異なる研究「気候変動下での永久凍土地帯に生育する樹木の地下部および地上部成長制限要因の変化」(科研費海外学術調査代表安江恒)によって、地上部と地下部への炭素配分を調べる目的で永久凍土上に生育するクロトウヒ(Picea mariana)に本年度もパルスラベリングが行われる予定である。本研究はこのラベリングの機会を利用して、ラベリング後に土壌ガスを採取し、その炭素同位体比を分析することで行う予定である。

昨年度おこなった結果より、温帯林に比べ、炭素移動速度が極端におそいことが明らかになった。おそらく土壌中に永久凍土が存在し低温であるためであろうと考えられる。本年度は土壌が融解しはじめる春と土壌が十分融解し気温が下がり始める秋に実験を行う予定である。

ラベリング対象木を3本選定し、その周囲にグリッドを設定し、土壌呼吸測定用のソイルコアー(直径10 ㎝)を各16個設置する。また根呼吸を対象としたコアーも各木3つずつ設置する。ラベリング前の自然状態のδ13Cとして、ラベリング前日に、土壌呼吸3点、根呼吸3点においてガスを採取する。ラベリング後1, 4, 8, 12日後に土壌ガスを採取する。各測定地点で時間をおいて2回採取し、その炭素同位体比を測定し、δ値と濃度の逆数をプロット(keeling plot)することによって土壌由来の二酸化炭素の同位体比を算出する。これを樹木の周囲に設置した16点の土壌呼吸測定地点で実施し、根呼吸由来の同位体比を合わせて測定することで、ミキシングモデルから、土壌呼吸における根呼吸の割合を評価する。

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2016年8月3日作成

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