研究課題
炭素安定同位体パルスラベリングを用いた、アラスカ永久凍土地帯における森林土壌呼吸における樹木由来のCO2放出量の推定
研究組織
代表者 | 檀浦正子(京都大学地球環境学堂) |
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共同研究者 | 高橋けんし(京都大学生存圏研究所) 安江恒(信州大学山岳科学研究所) |
研究概要
亜寒帯林は森林生態系全体の約5割の炭素を蓄積しているため、気候システムに大きな影響を与えうる。加えて高緯度地帯では非常に大きな気温上昇が予測されているため、亜寒帯林における炭素循環変化を理解することは非常に重要である。
これら陸域森林の炭素放出量のうち、土壌から放出される二酸化炭素(土壌呼吸)はその1/2とも1/3ともいわれる大きな役割を占めている。土壌呼吸は主に根由来の呼吸(独立栄養呼吸)と微生物による分解呼吸(従属栄養呼吸)とからなっており、炭素循環を精度よく推定するためには、由来が異なり、環境応答性も異なる両者を分離する必要がある。特に亜寒帯林では、地上部と比較して根への炭素配分比が多く(Noguchi et al., 2012)、地下部の役割は非常に大きいと考えられる。
土壌呼吸における独立栄養呼吸を分離する手法には、直接法(根を掘り出して呼吸量を測定する)、間接法(トレンチや、樹皮剥離などにより根呼吸を除去した土壌呼吸を分解呼吸として測定する)があるがどちらも攪乱影響が大きく、正確な値を得るのは難しい。根呼吸と分解呼吸の安定同位体が異なれば、非破壊的に、ミキシングモデルから割合を求めることは可能であるが、森林生態系においては両者はほとんど同じで区別できない。
安定同位体ラベリング手法は、光合成を利用して13CO2を樹木に吸収させ、人為的に樹木由来の呼吸中の炭素同位体比を変化させることができる。それゆえ、非破壊的に独立栄養呼吸の割合が算出できる。この方法を用いて、亜寒帯林における地下部炭素循環の役割を評価することが目標である。
対象とする亜寒帯林は、永久凍土の影響で土壌層が非常に薄く、夏でも土壌の中は低温である。限られた養分をめぐり根は大きく広がり、低温のため分解の遅い有機物層が発達している。土壌呼吸は一般に温度に対して指数関数的に上昇するが、これらの生態系は、温暖化の影響をうけて、大きな二酸化炭素の放出源になる可能性がある。安定同位体ラベリング手法を用いた非破壊的な研究手法は非常に先端性があり、この方法を、永久凍土上の森林に適応することは、将来の気候変動に対する環境応答モデリングに対しても重要なパラメータを提供することになる。
アラスカ州フェアバンクス近郊のCaribou Poker Creek Research Watershedを試験地とする。本試験地は長期生態研究試験サイトとして設定されており、様々な生態的・気象的データがとられている。クロトウヒ、シロトウヒ、カンバ、カラマツが分布し、林床はコケ・地衣類で覆われている。
ラベリング対象木を3本選定し、その周囲にグリッドを設定し、土壌呼吸測定用のソイルコアー(直径10 ㎝)を各16個設置する。また根呼吸を対象としたコアーも各木3つずつ設置する。ラベリング前の自然状態のδ13Cとして、ラベリング前日に、土壌呼吸3点、根呼吸3点においてガスを採取する。ラベリング後1, 2, 4, 7日後に土壌ガスを採取する。各測定地点で時間をおいて2回採取し、その炭素同位体比を測定し、δ値と濃度の逆数をプロット(keeling plot)することによって土壌由来の二酸化炭素の同位体比を算出する。これを面的に実施し、根呼吸由来の同位体比を合わせて測定することで、ミキシングモデルから、土壌呼吸における根呼吸の割合を面的に評価する。
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2015年7月14日作成