研究課題
ハエ目による病気媒介根絶を目指した昆虫知覚システムの解明に向けての基礎的研究
研究組織
代表者 | 柳川綾 (京都大学生存圏研究所) |
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共同研究者 | Frederic Marion-Poll (フランス国立科学研究所) Alexandra Guigue (フランス国立農業研究所) 吉村剛 (京都大学生存圏研究所) 畑俊充 (京都大学生存圏研究所) |
研究概要
ハエは人類にとってもっとも身近な昆虫の一種であり、ハエの中でもイエバエやコバエ(一般にショウジョウバエ)は、人の居住環境に生息し、不快害虫としてだけでなく、かつてはポリオウイルス、赤痢菌、サルモネラ、赤痢アメーバ、回虫卵、鞭虫卵などの感染症を、主に食物汚染を通じて間接的に媒介し、深刻な問題となっていた。先進国では、衛生環境の向上によりあまり問題視されなくなったが、発展途上国では今でも深刻な病気媒介昆虫である。本研究課題は、微生物農薬による効果的な害虫管理の確立を視野に、居住圏におけるハエ目による病原菌間接汚染阻止を目指すものである。ハエ目は間接汚染による病気媒介を行うため、ハエによる感染症の媒介経路は多く研究されてきているが、腐敗植物や動物の糞便・死骸から養分を摂取し、ハエ自身にとっても有害な微生物と接触しているはずの本種が、どのように微生物を識別し、忌避あるいは許容しているのかということは、汚染を防ぐために非常に重要か点であるにも関わらずこれまでほとんど研究例がない。そこで、有用な遺伝子ツールであるキイロショウジョウバエ Drosophila melanogaster をモデル昆虫として、本種が汚染源に接触した際に行う衛生行動の仕組みを解明する。環境中に汎用な微生物である大腸菌 Escherichia coli をモデル生息環境中微生物として使用する。
すでに、頭部を除去したショウジョウバエの翅上に味覚的な刺激を与えることで、反射的なグルーミング行動を誘導することに成功している。刺激としては苦味物質および大腸菌懸濁液に加えて、病原菌由来物質(lipopolysaccharides)によって行動誘導が観察された。翅は肢と同様、外部環境との接触が多い器官であり、外部環境の情報収集に本器官が関わっているのではないかという推測はこれまでにもあったが、翅上味覚感覚毛を刺激することにより行動誘因に成功した例はこれまでなかった。このため、翅上味覚感覚毛がグルーミング行動誘因に関与していることを明確にするために、本行動が実際に味覚刺激によって引き起こされているのかという点を、機械刺激受容細胞、水受容細胞の影響などを一つ一つ検討した上で、明瞭に提示していく必要がある。
以下の手法により味覚受容器がグルーミング行動誘導に関わっていることを証明したい。
- 味覚遺伝子 Gr シリーズの突然変異個体を用いた行動誘導試験を行い、グルーミング行動に関与する味覚遺伝子の有無を確認する。
- 標的味覚細胞上に GFP タンパク質発現させることにより、翅上で発現している味覚受容遺伝子を調査する(Gal4-UAS システムの利用)。
- 機械刺激の影響を除くため、味覚細胞上に光ロドプシンを発現させた個体を作成し、UV ライトよる味覚細胞活性化を実現する(Gal4-UAS システムの利用)。UV ライト照射により味覚細胞を活性化させて、接触刺激のない状態におけるグルーミング行動を調査する。
- 現在水に溶かして与えている味覚刺激から、水受容細胞の影響を除くため、水受容に関わる遺伝子 ppk28 上に Diphtheria toxin (DTI)を発現させて水受容細胞を失活させた個体(Gal4-UAS システムの利用)を作成し、行動試験を行う。
以上 4 ステップにより、機械刺激および水刺激を除いた、味覚刺激と衛生行動誘因における相互作用を明らかにする。
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2013年7月23日作成