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2012(平成24) 年度 生存圏科学 萌芽研究 9

更新日: 2017/09/23

研究課題

アルカロイド輸送能の改変植物を用いた環境適応機構の解明と物質生産

研究組織

 代表者 士反伸和 (神戸薬科大学)
 共同研究者 矢崎一史 (京都大学生存圏研究所)
杉山暁史 (京都大学生存圏研究所)

研究概要

植物は環境適応戦略の一つとして、20 万種類を超える二次代謝産物を生産する。その中には生理活性が高く医薬品原料に用いられるものも多いため、植物は燃料や材料のための再生可能資源としてだけでなく、医薬品の安定供給という点でも人類の生存に必要不可欠となっている。しかし、植物中の含量の低さや希少植物を起原とするなどにより安定供給の難しい化合物も多い。そこでこれまで生合成酵素などの研究が進められてきたが、こうした手法で植物成分の大量生産に成功した例は少ない。近年の研究から、二次代謝産物は生合成後に細胞内オルガネラ間や組織・器官の間をダイナミックに移動し、蓄積部位の液胞などに集積することが明らかとなってきた。そのため植物を用いた安定生産系の確立には、代謝生成(生合成)と同時に、輸送体による液胞などへの隔離の両者が協調することが極めて重要であるが、輸送機構はほとんど明らかとなっていない。

我々は、物質集積の研究モデルとしてタバコ植物のニコチンアルカロイド輸送を解析してきた。タバコ植物は昆虫による傷害を受けた際、強い毒性を示すニコチンを根で生合成後、地上部へ転流し、最終的に葉の液胞に蓄積することで身を守っている。網羅的遺伝子解析からニコチン輸送候補として 4 つの輸送体(Nt-JAT1、C215、T449、T408)に着目し、Nt-JAT1 が葉の液胞へのニコチン輸送を担うこと(Morita et al., 2009 PNAS)、C215 が液胞に局在しニコチン輸送能を有することを明らかとしてきた。しかしながら、それら輸送体が植物体でのニコチン生産や虫害応答に果たす生理的役割は明らかとなっていない。そこでこれまでに、各種輸送体の過剰発現、発現抑制したタバコ植物および培養細胞を作成してきた。本研究では、これら形質転換植物の根や葉における蓄積量を定量解析し、生合成から輸送までを含めた転流の統合的な解明を目指す。また、形質転換した培養細胞を用い、ニコチン生産を誘導した際の生産量などを検討することで、輸送体を用いた物質生産への基礎的知見を得るとともに、大量生産への基盤構築を目指す(図 1)。

植物の環境応答において、二次代謝産物の生合成酵素の知見は多くあるものの、輸送・蓄積の知見は乏しい。植物の環境応答を輸送という視点から明らかにし、いまだ成功例の希少な有用物質生産の基盤構築を目指す本研究は、高い先端性と、基礎と応用をつなぐ学際的な萌芽性を有している。その応用展開の先には、医薬品として重要な植物アルカロイドのモルヒネ(鎮痛剤)やビンブラスチン(抗がん剤)などの将来的な安定供給技術の開発も含まれる。本研究は、将来的に形質転換植物を用いて薬用資源の安定生産を目指す萌芽的研究であり、人類の持続的生存に大きく貢献すると期待される。

士反伸和: 2012(平成24)年度 生存圏科学萌芽研究図 1 アルカロイド輸送能の改変植物を用いた環境適応機構の解明

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2012年7月27日作成

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