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2010(平成22) 年度 生存圏科学 萌芽研究 6

更新日: 2017/09/22

研究課題

マイクロ波エネルギー選択捕集能をもつイオン液体の合成と木質バイオリファイナリーへの展開

研究組織

 代表者 粳間由幸 (米子工業高等専門学校物質工学科)
 共同研究者 渡辺隆司 (京都大学生存圏研究所)
吉岡康一 (京都大学生存圏研究所)

研究概要

今後予想される石油資源の枯渇により、世界中で新たな資源の探索が激化している。太陽光発電、風力発電は環境負荷の少ないエネルギーであるが、有機資源ではないため、炭素資源として石油の代替にはならない。そこで再生可能な唯一の炭素資源として木質バイオマスが脚光を浴びており、有用物質の生産が期待されている。

粳間由幸: 2010(平成22)年度 生存圏科学萌芽研究

近年、水や有機溶媒に代わる溶媒として「イオン液体」(以下 IL: ionic liquid)が注目を集めている。通常、室温で塩は個体で存在するが、構成するイオン種を有機イオンで置換した場合、融点が低下し、室温で液体として存在する塩「イオン液体」になる。溶解させる対象や研究目的に応じて様々な構造のイオン液体を合成することが可能であるが、イオン液体の構造と溶解性の相関はまだ十分確立されていない。

木材を化学成分として有効利用するためには、多糖類であるセルロースやヘミセルロースとリグニンを分離することが必要であるが、紙を製造するために、高温高圧強アルカリ反応とそれに続く多段階の漂白工程が必要なことからわかるように、この成分分離は容易ではない。イオン液体は、この成分分離に革命を起こす可能性を秘めている。2002 年にイオン液体によるセルロースの溶解が、2006 年にはリグニンの液化が報告されている。特に、イミダゾリウム塩は液化性が非常に高く、リグニン分解系にも応用されているが、高温に昇温する必要があり、分離効率は高くない。このように、リグニンと多糖を低エネルギーインプットで高効率で分離するイオン液体はまだ報告されておらず、新規な構造をもつイオン液体の合成と新しい発想が必要である。成分分離は、リグニンの化学資源としての利用、糖質の糖化・発酵による有用物質への変換を加速する。

本研究は、上記の問題点を打開すべく、リグニン溶解能が高い IL を合成し、高効率で木質成分を分離する。特に、イオン液体にマイクロ波感受性の金属イオンを配位させることにより、リグニン分解の活性点に選択的にエネルギーを集中させて、成分分離の効率を飛躍的に高めることを狙う。こうした発想は、我々が知る限り報告例がなく、世界で初めての試みとなる。

これらを目標に、(1)新規機能性 IL の合成、(2)新規機能性 IL による木材成分の抽出、(3)新規機能性 IL を溶媒系に用いた新規リグニン分解系の開発、の三点を中心に研究をおこなう。(1)では、市販 IL を溶媒に用いた報告例は多いが、リグニン抽出および分解系の溶媒への応用を目指した開発は稀有である。(2)は、有機溶媒系より環境面で優れており、抽出効率の上昇が期待できる。(3)では、マイクロ波による選択的エネルギー供給と組み合わせた新規なリグニン分解系を構築する。これらの一連の研究は、再生可能な木質バイオマスからエネルギーおよび化学原料を供給することで、人類の持続的生存の基盤構築に寄与する。これらにより生存圏科学の発展のみならず、他の分野に与えるインパクトは大きい。

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2010年8月3日作成

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