要旨
木造住宅は腐朽や蟻害といった生物劣化を受けた場合に耐震性能が低下する。既存住宅を長期利用するためには、状況に応じた適切な耐震補強・補修が必要となるが、生物劣化がみられた木造住宅の残存耐震性能を詳細に評価する手法は定まっていない。現在、既存住宅の残存耐震性能の評価にあっては、劣化が疑われる部分にドライバーを直接突き刺し、刺さり具合によって劣化度を判断するなど、診断者の感覚に頼る部分が大きい。そこで、より定量的な評価が可能となることを目指して、劣化診断機器としてピン貫入抵抗測定装置を取り上げ、木材や接合部の残存性能などとの関係についてのデータの蓄積が進められており、これを用いた耐震性能評価が可能となることを目的とした研究に取り組んでいる。
生物劣化がよく見られる個所は、水回り付近や仕上げにクラックがみられた開口部付近の部材などといった水分が供給されやすい場所であることが知られている。例えば写真1は浴室周りの土台が腐朽被害を受けて崩れている例である。一方で、劣化箇所によっては地震に対する性能には大きく影響しない場合がある。劣化内容に応じた詳細な評価を可能とするためには、劣化箇所や程度の異なる数多くの劣化パターンについての分析が必要である。そのため、実際に劣化した構造要素の実験データを用いた木造住宅の地震シミュレーションを実施し、データの拡充を図る。例えば、写真2は合板耐力壁の下部に強制的に腐朽被害を発生させた試験体を製作し、実験によって性能を確認している様子である。シミュレーションによって得られたデータを分析することによって、これまで定量的に評価することが難しかった生物劣化を受けた住宅の耐震性能の評価手法の提案を目指している。
本発表では、生物劣化を受けた木造住宅のより実態に則した残存性能評価を目指したこれらの取り組みについて紹介し、今後の展望について述べる。
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2023年6月9日作成