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第277回定例オープンセミナー
不思議の国のdMac3・・ ゲノム編集の効率化とジャガイモ塊茎デンプンの形質改変

更新日: 2021/12/01

開催日時 2021(令和3)年12月22日(水) 12:30–13:20
開催場所 オンライン(Zoom)
発表者 島田浩章(東京理科大学・名誉教授)
関連ミッション ミッション5 高品位生存圏

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オープンセミナー事務局: rish-center_events@rish.kyoto-u.ac.jp
開催日当日午前10時までにご連絡ください。

要旨

ジャガイモは世界第4位の穀物生産量の主要作物である。ジャガイモのデンプンの品質・性状の改良は大きな課題であり、今までない性質のデンプン品質や特性は、新たな需要を生むと期待される。栽培種のジャガイモは栄養生殖性が強く、4倍体ゲノムをもつ。このため、通常の育種法では新たな形質を有する品種を作出することは容易でない。しかし、ゲノム編集技術は、特定の遺伝子の変異の誘導が可能であり、これにより有用な形質を有する新たな品種を育成することができると考えられる。

デンプンに含まれるアミロース含量が低いデンプンはモチ性の形質を示す。一方アミロース含量の高いでん粉はリン酸架橋されることで難消化性デンプンとなり、便通の改善効果や大腸癌のリスク低減、腸内細菌の増強などの効果が期待される。デンプンに含まれるリン酸含量が減少した低リン酸デンプンは練り物の加工特性に優れ、保水性向上や食味維持に繋がる。

ところで、イネのOsMac3遺伝子に含まれる5’非翻訳領域に由来するRNA配列のdMac3は、下流のOFRの翻訳量を数倍から数十倍に増強する活性を有することがわかった。dMac3は、特徴的な立体構造を有することが示唆され、この構造が下流ORFの翻訳促進に寄与していることが強く示唆された。dMac3の翻訳促進効果は、イネだけではなく、様々な植物種や小麦胚芽発現系でも観察された。このことから、dMac3を組み込んだゲノム編集ツールは量的増加効果が見込まれ、これによるゲノム編集効率の増強が可能であると考えられた。そこで、dMac3をゲノム編集ツールに組み込んだところ、CRISPR/dMac3-Cas9システムは、従来のCRISPR/Cas9システムに比べてゲノム編集効率が飛躍的に高まることがわかった。

このシステムを用いて4倍体ゲノムであるジャガイモのゲノム編集を試みた。塊茎のデンプンに含まれるアミロース生合成に関わる顆粒結合型デンプン合成酵素GBSS1、アミロペクチン生合成に関わるデンプン枝つけ酵素SBE3、デンプンのリン酸架橋に関わるGWD1遺伝子のそれぞれについて、CRISPR/dMac3-Cas9システムを用いて変異体の作製を試みたところ、いずれの遺伝子においても4つのアリル全てに変異が導入された変異体が得られた。これらの変異体は従来にない形質の塊茎デンプンが生じていることが示唆された。

これらの変異体のうち、GBSS変異体塊茎のデンプン形質を調べたところ、低アミロース含量の形質を示したことから、この変異体を交配することでCRISPR/Cas9の脱落したヌルセグリガント後代の取得を試みた。ジャガイモは開花・結実と塊茎の発達時期が重なる。多くの場合、果実は発達せずに落花するため、交配による後代の種子の取得は困難である。しかし、トマトを台木にした接ぎ木植物を作製し、これに生じた花を用いて交配を行ったところ、落花が抑制され高い割合で結実に至った。これにより多数の後代植物が得られた。後代植物を検定したところ、5個体がCRISPR/Cas9およびハイグロマイシン耐性が脱落したヌルセグリガント個体であることが分かった。これらの変異体後代植物から生じた塊茎は低アミロースの形質を示した。このうちの1系統はアミロースが検出されず、モチ・デンプンを産生する塊茎であることがわった。これらの変異体ジャガイモは従来にない形質を有する栽培品種として利用されることが期待される。

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2021年12月1日作成

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