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要旨
樹木は,自身の体(樹体)を支えるための戦略として幹や枝の力学的性能を高めている.その手段は大きく分けて二つあり,一つ目は,細胞壁成分,細胞構造,異なる細胞の配置といった階層的構造を利用して軽くて強い材料特性を獲得することである.二つ目は,樹体内部に自発的に応力を発生させることにより姿勢の制御や樹体の保護を可能にしていることである.この内部応力を樹木の成長応力あるいは残留応力と呼ぶ.
地面に対して真っ直ぐに立つ樹の場合,残留応力として幹の表面側では引張応力が,中心側には圧縮応力が観測され,表面側から中心側へと応力が傾斜して分布していることが分かっている.これにより,風などの外力を受けて幹が曲がっても,曲げによる圧縮応力と元々存在する引張応力が相殺することで,曲げ内側での座屈を免れると言われている.これは樹木にとって重要な生存戦略であることから,その実態や発生メカニズムについて植物学的な見地から興味を集めてきた.一方で,大きな残留応力は伐採や製材によって力学的に解放され,木材の割れや変形をもたらす.その結果,木材の生産性を大きく低下させることから,木質科学においてはその制御や低減の可能性を探って研究が進められてきた.
本セミナーでは成長応力・残留応力の役割について概説するとともに,発表者らが近年進めてきたスギおよびケヤキの残留応力に関する研究を通して,その樹種内・樹種間多様性について紹介したい.
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2021年9月8日作成