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第268回定例オープンセミナー
植物の代謝系の理解と利用を目指す技術開発について

更新日: 2021/06/11

開催日時 2021(令和3)年6月23日(水) 12:30–13:20
開催場所 オンライン(Zoom)
発表者 草野博彰(京都大学生存圏研究所・ミッション専攻研究員)
関連ミッション ミッション5 高品位生存圏

聴講希望の方は、下記Googleフォームへご登録ください。
https://forms.gle/pbNkJS4fADL1pPrF6
Googleフォームへご登録ができない方は、ご所属、お名前、連絡先等記してメールにてお問い合わせください。
オープンセミナー事務局: rish-center_events@rish.kyoto-u.ac.jp
開催日当日午前10時までにご連絡ください。

要旨

植物の代謝系は我々人類の生活に欠かせない食料や医薬品などの物質を生合成するシステムである。これに関わる遺伝子を利用することで、植物の代謝系を改変することや、植物の代謝系を異種生物に移植することなどが可能になる。今回のオープンセミナーでは植物の合成生物学における我々のこれまでの技術開発について紹介したい。

ゲノム編集は遺伝型のデザインを実用化する上で重要な技術だが、植物のゲノム編集技術は未だ発展途上にある。我々は4倍体のゲノムを持つジャガイモをモデルとしてゲノム編集技術の強化を試みた。dMac3翻訳エンハンサーは160塩基の塩基配列であり、mRNAの5’UTRとして利用することで下流ORFの翻訳を促進することができる。これをCRISPR/Cas9系に適用することで、ジャガイモに4つある相同遺伝子を一度の操作で欠損させることが容易になった。これにより作出されたGBSS遺伝子の欠損変異体ジャガイモはヨウ素デンプン反応の呈色に明らかな差が現れたため、アミロース比率の低いモチ性のデンプンを蓄積していると考えられる。モチ性のジャガイモは独得の食感を持つほか、接着剤や製紙原料としても利点がある。また、デンプン枝付け酵素SBE3を欠損させることで、アミロースの多い欠損変異体を作出した。現在、このdMac3で強化したCRISPR/Cas9系はリソースセンターを通して配布されている。

複雑で未知な生命システムをデザインする方法論としてDBTLサイクルという概念が提唱されている。DBTLサイクルでは遺伝型のデザイン・実装・測定・評価を繰り返すことで遺伝型を新たにデザインするので、遺伝型を実装するステップも容易かつ短期間で実現できる必要がある。我々は植物の遺伝型を改変できる技術としてウイルスベクターに注目し、薬用植物ムラサキへの適用を検討した。リンゴ小球形潜在ウイルスをベースとするベクターを利用することで、PDS遺伝子の機能抑制による葉の色素の欠損を観察することができた。ウイルスベクターは生育中の植物に対して適用できるため、植物の世代時間に関わりなく遺伝型を実装できる。このためDBTLサイクルを植物に適用するための要素技術として期待できる。

DBTLサイクルのような方法では膨大なデータを人工知能が取り扱うが、我々はそれを人間がモニタリングできるようにしたいと考えている。そこで現在、液体クロマトグラフ質量分析計(LCMS)の出力データを解析するためのツールを開発している。これはLC、MS、輝度の3変数を座標軸とする一枚の3次元空間上に多数の測定データを同時にプロットさせることで、各化合物の実験区間の差異を人間が視覚的に理解しながら解析することを目指している。これを微生物へ移植した代謝系の挙動の変化や、植物の遺伝型の改変の効果を把握するために利用したい。

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2021年6月11日作成

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