要旨
近年、熱帯域各地において早生樹(fast-growing tree)の産業植林が急速に拡大している。熱帯林の把握も重要であるが、同時に、植林地の持続的な利用に向けた長期モニタリングも重要課題として認識が高まっている。近年、森林の把握には、衛星リモートセンシングが利用されるが、年中雲に覆われる熱帯域では、天候に影響されず観測可能なマイクロ波衛星データの利用が不可欠である。
本研究は、マイクロ波衛星データを用いたインドネシアの大規模アカシア植林地の森林バイオマス推定手法の開発を最終的な目的としている。これまで、本研究グループでは、マイクロ波合成開口レーダデータに散乱電力分解手法を適用し散乱情報を抽出、その時系列解析を進めてきた。
本研究の大きな特徴は、マイクロ波衛星データ(ALOS/PALSAR)の各散乱成分(表面散乱+キャノピー散乱+ 2 回反射散乱+へリックス散乱)と、地上の定点観測プロット: PSP における森林パラメータ(胸高直径・樹高・立木材積)との突きあわせ解析により、アカシア林における散乱メカニズムの解明を進めている点である。これまでに、地上観測データとマイクロ波後方散乱の関係性を明確にし(Fig. 1)、さらに成熟林(5–6年生)においては、下層植生が後方散乱を大きく変化させていることを示した(Fig. 2)。
現在は、アカシアの森林構造の変化から生じる散乱特性の変化、その散乱メカニズムが明らかになりつつある。散乱メカニズムを明らかにすることにより、マイクロ波衛星データからの森林バイオマス(流木材積)の推定手法の開発を進めることができると考えている。今回のセミナーでは、これまでの幾つかの研究成果と併せて、林層構造の遷移により生じるマイクロ波後方散乱の変化、散乱メカニズムに焦点をあてて紹介する。
Fig. 1. Scatter plots and regression lines between the base 10 logarithms of the forest stand volume (log10V) on the x-axis and the ratios of the decomposition powers (surface, canopy, double-bounce and helix scatterings) to the total power (P/TP) on the y-axis, for a) 2007, b) 2009 and c) 2010.
Fig. 2. Line graphs of the surface and canopy scattering powers (left), the double-bounce and helix scattering powers (center) and forest parameters: DBH, tree height and standing volume (right) for (a) Plot 4 and (b) Plot5.