要旨
化石資源の消費量を減らし太陽輻射を利用した再生産可能なエネルギー変換利用による持続的な社会を構築するためには、これらの技術を用いた化学資源変換の研究を進展させることは必須である。この工学的解の一例としてマイクロ波によるエネルギー供給法を紹介し、材料屋の視点からこのエネルギー供給法の魅力を述べる。また、マイクロ波の特徴を利用したプロセスの一例として、マイクロ波製鉄、空気中での窒化物合成等の新規な研究を紹介する。
マイクロ波製鉄
マイクロ波の持つ高速エネルギー供給能に注目した研究として、マイクロ波製鉄が挙げられる。鉄鋼産業では依然高温ガスを利用するプロセスが主となるエネルギー源であり、我が国におけるエネルギー生成に要する温室ガスの排出量の 1/3 をこの分野が占めている(図 1)。マイクロ波製鉄はこの分野における温暖化ガス排出量を削減するために提案され、これまで炭素の燃焼により生成されていたエネルギーを電磁エネルギーに転換することで、排出炭酸ガスを 50 % 削減することが期待できる。
図 1) 平成 19 年度の我が国における各分野温室ガス排出量(環境省調べ)。マイクロ波製鉄は鉄鋼業における排出炭素量を半減することが目的である。
*なお、本研究は日本古来の「たたら」と呼ばれる金属製錬法と最先端技術をマイクロ波でつなぐ側面も有している。
大気圧下における窒化チタン合成
マイクロ波の持つ選択加熱能に注目した研究として、大気圧下での窒化チタン合成が挙げられる。チタン窒化物は優れた特性を多く有しており、広くコーティング等に用いられているが、その合成には精密な雰囲気制御が必要であるため高価である。これはチタン元素が酸素と非常に結合しやすいためである。しかし、マイクロ波で金属チタンを加熱すると、空気中でも容易にその窒化物を得ることができる。金属チタンと特性が類似したものであれば(図 2: チタン合金のマイクロ波加熱による窒化物形成)、同様の合成が可能であるので、他物質での検討を重ねている。
また、この選択加熱の特性は新物質(組織)創製への応用も期待されており、可能であればこれも紹介したい。
図 2 (a) マイクロ波加熱前, (b) 電気炉による加熱後 (T= 1000 ℃) and (c) 2.9×102 W マイクロ波加熱後 (T= 1037 ℃) 80mass% Ti-Cr 合金の写真。