要旨
動物のような直接的移動手段を持たない植物は、与えられた環境でさまざまな外的要因に耐え抜くため特徴的なシステム(適応機構)を進化させてきた。その一つが香り物質(揮発性化合物)の合成能力である。植物は、“香り物質のブレンド” を放散し受粉媒介者を誘引することで次世代を担う花粉や種子の散布を介した移動手段を発達させてきた。さらに、植物が生産する香り物質は植物病原菌や植食性昆虫に対して抗菌、忌避作用を示すことから防御物質として機能することが知られている。このように植物香り物質は生態系の中で重要な生理的役割を担っているものの、その生合成系について分子レベルで明らかにした事例は少ない。
本講演では、植物がどのようにして香り物質の多様性を獲得したのか、フェニルプロパノイド系香り物質の生合成を中心にして紹介する。さらに、植物香り物質の生理機能を利用した生存圏科学への応用についても紹介したい。