要旨
生産者を起点とする物質の移動は大きく生食経路と腐食経路に分ける事が可能であり、両者は食物網構造上の重要な概念である。生食経路は、光合成生産後、ご く短期間のうちに食物網に取り込まれるという点で腐食経路とは異なっているために、食物網を流れる有機物が生産されてからの経過年代を調べる事により、食 物網中の物質動態及び経路を解明する事が出来ると考えられる。本研究では、食物網内の有機物の年代を調べる方法として、放射性炭素同位体 (14C) 分析を用いて陸域の食物網経路を解明する事を目的としている。
原口岳(京都大学生態学研究センター)らは、研究の第一段階として広食性の捕食者に取り込まれる物質の生産年代が、遷移として特徴づけられる環境傾度に よってどのように変化するのかを研究した。捕食者として様々な環境に多数生息するクモ目に着目し、現在基礎データとして遷移に伴うクモ群集組成の変化を記 録すると共に、採集したクモ目の 14C 分析を行っている。
本発表では、食物網解析の手法として広く用いられている炭素・窒素安定同位体情報を基に、捕食者としてのクモ目が腐食経路上の食物資源を利用している事を定性的に示す。その上で、陸域の食物網構造を支える有機物及びエネルギーの流れを解明する上で 14C 情報を利用する事の有効性について論じる。