要旨
森林生態系の作り出すさまざまな生態系サービスに対する期待は、近年非常に大きなものがある。そのような状況にも関わらず、生態系サービスの形成されるメ カニズムの解明やサービスに対する評価は十分とはいえない。それはひとつには、われわれが注目する水・土・熱などが、森林生態系を経由することによってど のように、また、どの程度変化するのかといった科学的・定量的研究が不足していることによる。森林生態系はそれ自身がさまざまな構成員、すなわち、森林生 態系内で最大のバイオマスをもつ樹木をはじめとして、草などその他の植物・動物・微生物・土壌・水・大気などからなり、またこれらが異なる立場、つまり生 物であったり非生物であったり、あるいは場であったり媒体であったりするように、相互の関係が複雑なため定量化が困難であることによる。さらに、これら各 主体の関与する時間スケールが異なることも、研究を難しくしている。
異なる立場の構成員をつなぐ手法として、特定の物質の循環を基礎とする方法が用いられる。この場合、炭素・窒素など生物・非生物間を循環する物質を、人間社会における貨幣のような指標として認識することができる。
時間については、主要な構成員である樹木の歳だけを変化させると考えることによって異なる林齢の異なる森林生態系を比較して、スナップショット的に変化を捉える方法(クロノシークエンス)がある。
発表では操作実験のひとつとして森林伐採を取り上げ、上記の手法を用いて、森林生態系を伐採すると水質形成などの生態系サービスはどうなるのかについて紹介する。