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第33回(2006年度第7回)定例オープンセミナー資料

更新日: 2015/08/07

開催日時 2006/07/12(水曜日)
題目 水素化したマンガン酸化物を利用した海洋リチウム資源開発
—核融合の時代に向かって—
発表者 古屋仲秀樹 (京都大学生存圏研究所・ミッション専攻研究員)

要旨

研究の背景

現在、国際的な共同研究によって開発が進められているトカマク型核融合炉では、重水素と三重水素の D-T 反応による核融合を実用化しようとしている。燃料の内、重水素は天然の水素原子 6 700 個に 1 個の割合で存在していることから、海水にその資源を求めることができる。ところが、三重水素については天然の水素原子 1×1018 個に 1 個と存在割合が大変低く、また半減期 12.5 年の放射性元素でもあるため、将来の核融合発電計画の実現・維持のために充分な量が地球上に存在しない。このため、核融合炉のプラズマ炉心を、リチウム 6Li を含んだブランケットで取り囲み中性子を照射することで、 6Li から三重水素を人工的に生産する必要がある。ところが、天然の 6Li の同位体存在比は 7.29–7.42 % であり、 7Li の 92.58–92.71 % に比べて大変低い。このため、核融合燃料である 6Li の備蓄のためには大量のリチウムを確保する必要がある。現在、リチウム資源は主として南米の塩湖から採取されているが、世界で使用される核融合燃料として は充分な資源量ではない。このため、海水中の濃度 0.1 ppm のリチウムイオンを効率的に採取する手法が検討されている。

本講演の概要

本講演では、水素化したマンガン酸化物の物性と化学的特性を利用した海洋リチウム資源開発について話題提供する。マンガン酸化物は、その結晶構造においてマンガン原子を中心に 6 つの酸素原子が配位して形成する 8 面体がユニットとなり、それらのユニットがいろいろな配列で積み重なることによって、アルファ、ベーター、ガンマ、イプシロン、アール、ラムダなど、種々の結晶構造を構築する。大変興味深いことに、これらのマンガン酸化物は結晶構造によってそれぞれ異なった物理・化学的特性を有している。特に、アールとラムダ型の結晶構造をもつマンガン酸化物は、酸処理などの化学処理のみで容易に水素化するが、このうちアール型は水素化すると水中の亜ヒ酸錯体 [1,2] や塩化金錯体 [3] に対して高い選択的な吸着性を示す。一方、ラムダ型のマンガン酸化物は水素化するとリチウムイオン [4–6] に対して強い選択的な吸着性を示し、前述の亜ヒ素錯体や塩化金錯体には吸着性を示さない。これら水素化したマンガン酸化物の特性を研究するためには、結晶内のプロトン(水素イオン)の挙動解析が学術的には重要であり、現在も主要な研究課題として中性子を使った解析などが精力的に取り組まれている。一方で、これらの優れた機能性を利用する工業的な応用展開も検討されている。今回の講演では、水素化したラムダ型の酸化マンガンのナノパウダーに関する合成法と特性を解説し、さらに最終的に、どのようにしてこのナノ材料を海水中のリチウム資源を採取する技術に結びつけたかを豊富な実験結果の図表と写真を用いて論説する。

引用文献

[1] T. Kasai and H. Koyanaka, Removal of arsenic ion with manganese oxide compounds, Transactions of the materials research society of Japan, vol. 27, No. 2, p. 463–466, 2002

[2] C.-K. Loong and H. Koyanaka, Harvesting precious metals and removing contaminants from natural waters, J. Neutron Res. vol. 13, (1–3), pp. 15–19, Mar–Sep., 2005

[3] H. Koyanaka, K. Takeuch and C. K. Loong, Gold recovery from parts-per-trillion-level aqueous solutions by ananostructured manganese oxide-based adsorbent, Separation and Purification Technology, vol. 43, pp. 9–15, 2005

[4] H. Koyanaka, O. Matsubaya, Y. Koyanaka, and N. Hatta, Quantitative Correlation between Li Absorption and H Content in Manganese Oxide Spinel lambda-MnO2, J. Electroanalytical Chemistry, vol. 559, pp. 77–81, 2003

[5] 古屋仲秀樹・古屋仲芳男・沼田芳明・若松貴英:吸着プレート法による海水からのリチウム採取, 資源と素材, vol. 113, No. 4, p. 275–279, 1997

[6] 古屋仲秀樹・古屋仲芳男・沼田芳明・若松貴英:地熱水からの有効成分の採取, 資源処理技術, vol. 43, No. 2, p. 60–67, 1996

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