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2025(令和7) 年度 生存圏科学 共同研究 9

更新日: 2025/07/23

研究課題

水生植物や藻類の状態が湖沼の炭素・窒素循環に与える影響の解明

研究組織

 代表者 坂部 綾香 (京都大学 農学研究科)
 共同研究者 伊藤 雅之 (京都大学 生存圏研究所)
尾坂 兼一(滋賀県立大学 環境科学部)
関連ミッション
  • ミッション1 環境診断・循環機能制御
  • ミッション5 高品位生存圏

研究概要

人口増加に伴う農地への施肥等の影響から、世界中で湖沼の富栄養化問題が顕在化している。富栄養化は、水質悪化に伴う生態系への悪影響のみならず、二酸化炭素やメタン等の主要な温室効果ガス放出量の増大も引き起こす恐れがある。特に、湖沼からのメタン放出量は、自然起源で最大の寄与を持つ湿地に匹敵すると考えられるが、その収支の推定には未だ多くの課題がある。中でも小規模な湖沼は、現在も全球収支の推定に含まれていない。しかし、小規模な湖沼は水深が浅く、陸からの炭素や窒素を含む栄養塩供給が水質に及ぼす影響が大きいため、面積の割にメタン放出量が大きい可能性が高い。小規模な湖沼における観測は絶対的に不足しており、放出量やその制御要因の理解が求められる。さらに、富栄養化に伴う水生植物や藻類バイオマスの変化は、光合成や有機物の分解に伴う二酸化炭素収支にも影響する。両温室効果ガス収支の全球における正確な評価や将来予測に向けて、小規模な湖沼の富栄養化が温室効果ガス動態に与える影響の解明が必要である。

本研究は、湖沼の栄養塩濃度に応じた一次生産者の差異が、流下する水質や大気と交換する温室効果ガスの量に与える影響に着目して、7つの湖沼を対象に、富栄養化の評価に関わる水質分析と温室効果ガス動態の観測を行う。3サイトは、水田や住宅地を集水域とするため富栄養であると予測され、他の4サイトは、森林のみを集水域とするため貧栄養な状態であると予測される。7つの湖沼で月に1-2回の頻度で採水を行い、現地で水温、pH、電気伝導度、溶存無機炭素の測定を行い、実験室で処理したサンプルについて、各種イオン濃度、溶存有機炭素・窒素濃度、藻類の量の指標となるクロロフィルa濃度の分析を行う。流入水と池水を分析することで、湖沼での有機物の生成・分解過程を考察し、湖沼内での水質形成機構を明らかにする。

また、メタン放出量が特に大きいと予想される水田や住宅地を集水域とする2サイトでは、微気象学的手法による湖面と大気間のメタン、二酸化炭素ガス交換量の観測を行う。兵庫県加古川市に位置するため池(布池)ではすでに観測データを取得しており、布池からのメタン放出量は、夏のアオコが発生する時期に急激に増加する季節変化を示し、年間のメタン放出量は湿地や水田といった他の水圏生態系に比べて大きいことが明らになった。そこで、本研究では、布池と水深が同程度であり、同様にアオコが発生する琵琶湖の内湖である西の湖で、ガス交換量の観測を開始し、アオコの増減がメタン放出量に与える影響および、農閑期の排水の有無が年間のメタン放出量に与える影響の解明に取り組む。

補足テキスト: 2025(令和7)年度生存圏ミッション研究#03図1
布池における湖面と大気間のメタン、二酸化炭素ガス交換量を測定するための測器の設置状況

 

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2025年7月23日作成

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