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2017(平成29) 年度 生存圏科学 ミッション研究 23

更新日: 2017/07/13

研究課題

構造均一化リグニンの酸化分解とその分解物の生理活性

研究組織

 代表者 三亀啓吾(新潟大学農学部)
 共同研究者 渡辺隆司(京都大学生存圏研究所)
木内咲来(新潟大学農学部)
伸(青森県立保健大学)
Li Ruibo(京都大学生存圏研究所)
関連ミッション
  • ミッション5 高品位生存圏

研究概要

研究目的

植物資源に約30%含まれるリグニンは反応活性なフェニルプロパン化合物がエーテル結合を中心としたランダムカップリングした複雑な三次元ポリマーである。類似化合物であるリグナンやカテキンやタンニンは、フェノールとしての反応活性が高く、その抗酸化性等により様々な生理活性を有している。しかし、リグニンは生合成過程において反応活性が低下し、抗酸化性も低く、ほとんど生理活性はないと言われている。しかし、リグニンは自然界では土壌中で徐々に酸化分解され腐植物質となり、タンパク質や金属の吸着剤など様々な機能を果たしている(Fig. 1)。このようにリグニンはその分解により高い生理活性を発現する可能性を有していると考えられる。つまり、リグニンは潜在的な機能性高分子複合体と言える。しかし、パルプ製造時の燃料以外にはほとんど利用されていない。

Fig. 1 生態系における植物バイオマスの流れ
Fig. 1 生態系における植物バイオマスの流れ

本研究ではリグニンの土壌分解をmimicし、リグニンの酸化分解を行い、リグニンの高機能化を行っている。これまでリグニンの酸化銅分解物から長波長UV吸収能と抗酸化性を有するリグニンオリゴマーを単離している。しかし、その収率は低いことから、さまざま条件でリグニンの酸化銅分解を行い、触媒量制御により長波長UV吸収リグニンオリゴマーの生成効率が改善することを明らかにした。本申請では、複雑なリグニンの構造をある程度均一化した状態から酸化銅分解を行い、さらに選択性を向上させることを目的とする。

研究計画

リグニンの高付加価値用途開発を行うためには、リグニン構造の均一化が重要である。フェノールと酸を用いた相分離系変換処理によりリグニン構造を均一化した後、生理活性を有するリグニンオリゴマーに変換する。得られたオリゴマーの生理活性の評価を行う。
(1)構造均一化リグニンの酸化分解によるリグニンオリゴマーの選択的な誘導
・リグノフェノール(LP)を酸化銅分解する。
・フェノールタイプの異なるリグノフェノールを酸化銅分解する。
・リグノフェノール酸化分解に適した触媒の検討を行う。
(2)リグニン酸化分解オリゴマーの生理活性
・リグニンオリゴマーの抗酸化活性を測定する。

Fig. 2 相分離変換法から得られるリグノフェノールの基本
Fig. 2 相分離変換法から得られるリグノフェノールの基本

研究方法

リグニンは複雑な3次元状網目構造を形成しているためその分解は非常に困難であり、得られる分解物は多種多様である。このため均一性が重要視される現在の化学工業においてはリグニンの利用は困難である。リグニンを有効利用するためには、分解物の均一化と高付加価値化が重要である。申請者は、これまでフェノール/酸系からなる相分離変換法により分離されるフェノール化リグニン(LP)が天然リグニンの主要単位間結合であるβ-O-4結合を中心としたリニア型ポリマー(Fig. 1)に高レベルで均一化されていることを明らかにしてきた。さらにこのLPのアルカリ分解物からり約30 %の収率で新規アリールクマラン2量体を単離している。これらのことから、LPのアルカリ系酸化分解物は、天然リグニン由来酸化分解物と比べかなり構造が均一化できることが期待される。

本研究では、このLPを酸化銅分解することによりFig. 3のような長波長UV吸収リグニン分解物を選択的に高収率で得ること目的とする。そこで相分離変換法により針葉樹、広葉樹、草本植物からLPを調製し、これらをこれまで検討してきた条件で酸化銅分解することにより、長波長UV吸収リグニン分解物を選択的に生産する。そして、これらのリグニン分解物のUV-VISおよびFT-IR分析により、共役カルボニル基量などを調べる。そして、長波長UV吸収を有する化合物をPDA検出器を備えたHPLCなどにより分離・精製を行う。分離された化合物は、DPPHラジカル消去活性法などによる抗酸化活性を調べる。これらにより高付加価値リグニン分解物の選択的生産を行う。

Fig. 3 広葉樹リグニンの酸化分解物に含まれる長波長UV吸収新規化合物
Fig. 3 広葉樹リグニンの酸化分解物に含まれる長波長UV吸収新規化合物

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2017年7月13日作成

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