Research Institute for Sustainable Humanosphere

2017(平成29)年度 生存圏科学 ミッション研究 21

研究課題

MUレーダー実時間アダプティブクラッター抑圧技術の開発

研究組織

 代表者 橋口浩之(京都大学生存圏研究所)
 共同研究者 衛(京都大学生存圏研究所)
西村耕司(国立極地研究所)
久保田匡亮(京都大学生存圏研究所)
関連ミッション
  • ミッション1 環境診断・循環機能制御

研究概要

大気レーダー(ウィンドプロファイラー)は、大気乱流エコーを用いて風向風速の高度分布を高精度・高分解能で観測でき、大気重力波やメソ気象研究、気象予報業務への応用が盛んに行われている。気象庁は2001年からWINDASと呼ばれるウィンドプロファイラーネットワークを現業利用している。

大気レーダー観測において、しばしば山や建物からの固定クラッターエコーや飛行機などからのサイドローブエコーが観測の障害になることがある。クラッター抑圧手法として、複数の受信アンテナが使える場合に、通信分野などでよく用いられるDCMPを改良したNC-DCMP (ノルム・方向拘束付き電力最小化)法がNishimuraらにより提案された。これは、メインローブ形状を維持しながらクラッターを抑圧可能としたもので、シミュレーションとMUレーダー観測から、固定クラッターエコーをほぼ完全に抑圧できることが確認された。Nishimuraらは大量の観測生データをすべて記録し、NC-DCMP処理はオフラインで実施しており、実用的ではなかった。そこで我々は、計算処理の高速化を図り、NC-DCMP法によるクラッター抑圧処理をMUレーダーのオンライン処理システムとして実装することに既に成功している。これにより、観測データの容量を数百分の1に削減でき、標準観測として安定運用が可能となった。

一方、航空機エコーは固定クラッターエコーよりも強い場合があり、またドップラー効果による周波数変動のためNC-DCMP法による抑圧は十分ではない。特に信楽MU観測所上空には、様々な航空路が存在し、しばしばMUレーダー観測の障害となっている。本研究では、航空機エコーを抑圧する手法を開発し、オンライン処理システムとして実装することを目的とする。さらに、MUレーダー・WINDASレーダーに受信専用アンテナを付加し、様々な不要エコーを抑圧する手法についても検討する。

具体的には、次のように航空機クラッターエコー抑圧手法を開発する。MUレーダーの完成当初(1984年~)は航空機からのエコーが問題になることはほとんどなかったが、航空路がMUレーダー上空近傍を通ったことと、飛行する航空機の数が大幅に増えたことで、近年無視できない問題となっている。ほとんどの航空機からは、放送型自動従属監視(Automatic Dependent Surveillance-Broadcast: ADS-B)信号が送信されており、これには識別子、現在位置、高度、対気速度のような情報を含んでいる。近年、ワンセグチューナーを応用したADS-B信号受信システムが安価に利用可能となっている。ADS-B信号を受信して、MUレーダーから相対的な航空機の正確な位置情報を得て、それを利用して航空機エコーを抑圧する手法を開発・実装する。基本的なアイデアとしては、(1)航空機方向に強制的にアンテナのヌルを向けるように各群の受信位相を制御する方法、(2)まずメインローブを航空機方向に向けて航空機エコーの詳細なデータを取得し、それを観測元データから差し引いてデータを再構成する方法、の2種類を考えている。

また、外付け受信アンテナの追加によるクラッター抑圧システムについても検討したい。開発の容易さから、これまではMUレーダーのアンテナ19本から成るサブアレー25群のデータを利用している。しかし、クラッターをより良く抑圧するためには、メインアンテナのメインローブ方向に感度を持たず、クラッター方向に指向性を持つようなアンテナを利用するのが良いことが知られている。そこで、MUレーダーアンテナの周辺に天頂方向に感度がなく水平方向に全方位に指向性を有するターンスタイルアンテナを導入し、そのアンテナで積極的にクラッターエコーを受信する。MUレーダーは4つの予備受信チャンネルを持つので、RFからIFへの周波数変換器だけ追加して、受信機そのものはそれを利用する。同様に、2013年度に更新されたWINDASウィンドプロファイラーのプロトタイブである信楽MU観測所設置のLQ7ウィンドプロファイラーに受信アンテナを付加し、1.3 GHzウィンドプロファイラーのクラッター抑圧効果を検討する。LQ7の方がより近距離を観測対象とするので、グランドクラッターの影響は大きく、MUレーダーよりもその効果は大きいと期待される。受信機は実績のあるソフトウェア無線機USRPシリーズを用いて構成する。LQ7で効果が検証できれば、WINDASへの実装についても検討する。

橋口浩之: 2017(平成29)年度生存圏ミッション研究 図
メインビームで大気エコーを、サイドローブで山(建物)や航空機などからのクラッターエコーを同時受信。

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2017年7月13日作成

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