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第207回定例オープンセミナー
微気象学的手法による森林-大気間のメタン交換量の観測

更新日: 2016/07/12

開催日時 2016(平成28)年6月29日(水) 12:30‐13:20
開催場所 総合研究実験1号棟5階 HW525
題目 微気象学的手法による森林-大気間のメタン交換量の観測
Measurements of methane exchange between forests and the atmosphere by micrometeorological methods
発表者 坂部綾香(京都大学生存圏研究所・ミッション専攻研究員)
関連ミッション ミッション1 環境診断・循環機能制御

要旨

メタンは、二酸化炭素に次ぐ温室効果ガスとされているが、陸域生態系におけるメタン収支の理解は進んでいない。メタンは湿地や水田のような湛水した還元的土壌で生成・放出され、水分不飽和な酸化的土壌では酸化・吸収される。森林生態系は、大部分が酸化的土壌から成るため、主要なメタンの吸収源であると認識されてきた。しかし近年、微地形に起因して林内に局所的に存在する湛水した土壌、湿地、渓流域からのメタン放出量を加味するとメタン放出源に転じる可能性が指摘されている(Itoh et al., 2009)。林内の空間不均一なメタン動態を加味した森林生態系スケールのメタン収支を評価するには、渦相関法に代表される微気象学的手法が適しているが、これまでメタン濃度計の精度や応答速度の制約のために、渦相関法を適用することができなかった。森林は面積が大きいので、たとえメタン交換量が微量であっても総量で考えると、地球規模のメタン収支に強く影響するため、メタン収支の正確な定量化は重要である。

2010年代から、レーザー分光技術を利用した高精度なメタン濃度計が利用され始めた。本研究では、このレーザー分光を用いたメタン濃度計に、微気象学的手法である簡易渦集積法(REA法) (Hamotani et al., 1996, 2001)を組み合わせることで、森林生態系スケールのメタン交換量の観測を行った。同時に、林内のメタン放出源、吸収源のプロセス把握のために、チャンバー法によって、様々な地表面からのメタン交換量を観測し、林内の空間不均一なメタン動態の実態把握に取り組んだ。生態系スケールと様々な地表面におけるメタン交換量を測定し、統合して検討することで、森林におけるメタン収支の実態、その変動プロセスを明らかにすることを目的とした。

S0207_Sakabe 1

観測は、滋賀県南部に位置する温帯ヒノキ林とアラスカ内陸部に位置する亜寒帯クロトウヒ林で行った。温帯ヒノキ林は、温帯アジアモンスーン気候下にあり夏季に降水量が多く、流域内の渓畔域にメタンの発生源である湿地を含む。亜寒帯クロトウヒ林は、永久凍土の存在による排水性の悪さから湿潤域がパッチ状に存在し、地温が低いという特徴がある。

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REA法による観測の結果、温帯ヒノキ林は夏から秋の降雨後には、生態系スケールでメタン放出源となり、季節によってメタン放出源・吸収源として切り替わる様子が明らかになった。冬季には、目立ったメタン放出も吸収も見られなかった。メタン交換量の季節変化は、降雨の影響を受けており、無降雨が数日続くとメタン吸収が観測され、降雨後にメタン放出に転じる傾向が見られた。チャンバー法による観測の結果、流域内の大部分を占める林床ではメタン吸収が、流域内の湿地・渓流域ではメタン放出が観測された。土壌におけるメタン交換量も降雨の影響を受けていた。林床でのメタン吸収は、降雨に敏感に応答して減少し、梅雨時には著しく減少した。湿地では降雨が続いた夏から秋にかけて、林床での吸収に比べ2~3オーダー大きなメタン放出が観測された。生態系スケールで季節的にメタン放出源となることは、流域内で数パーセントの面積を占める湿地からのメタン放出量が、林床でのメタン吸収量を上回ったためと考えられた。

永久凍土上に生育する亜寒帯クロトウヒ林では、積雪のない6月から9月の間、REA法による観測を行った結果、年によって生態系スケールで弱いメタン放出源、吸収源となることが分かった。チャンバー法による観測の結果、乾燥した土壌ではメタン吸収が、湿潤な土壌ではメタン放出が観測された。吸収に比べ放出のレンジが大きかったことから、局所的に存在する湿潤な土壌でのメタン放出が乾燥した土壌での吸収を上回った結果、生態系スケールでメタン放出源となったと考えられた。

生態系スケールと地表面におけるメタン交換量の同時観測により、温帯ヒノキ林や亜寒帯クロトウヒ林が、生態系スケールでメタン放出源となりうるプロセスが明らかとなった。また、各サイト特有のメタン交換量の季節変化が明らかとなった。温帯ヒノキ林では、夏の多雨の影響を受けて湿地におけるメタン放出が増大し、メタン交換量の変動幅が大きくなった。一方、亜寒帯クロトウヒ林は、永久凍土の影響によって地温が低いためか、温帯ヒノキ林に比べメタン交換量の変動幅は小さかった。気候帯、森林タイプによってメタン放出、吸収特性が異なることから、全球メタン収支の精度向上に向けて、今後も様々な森林でメタン交換量の現地観測データの蓄積と変動プロセス理解を進める必要がある。

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2016年6月24日作成

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