Research Institute for Sustainable Humanosphere

第196回定例オープンセミナー資料
温冷感に視覚情報が与える影響

開催日時 2015(平成27)年7月29日
題目 温冷感に視覚情報が与える影響
The Effect of Visual Sense on Thermal Properties
発表者 高橋良香(京都大学生存圏研究所・ミッション専攻研究員)
関連ミッション ミッション 4 (循環型資源・材料開発)

要旨

1. はじめに

物質に触った時に感じる温冷感は主観的なものとはいえ、熱伝導率などの物理量からある程度、推測することが可能である吉田、1963)。ただ、この種の実験では、視覚の影響を受けないようにするため、遮蔽して材料を見ないで行う方法岡島ら、1976)や、目かくしをする方法原田ら、1983)が採用されることが多い。視覚情報があることによる影響は、昨年度、筆者が行った実験からも示された。筆者は、スギ材を見たり、触ったり、見て触った時の各種生理量を計測し、血圧の結果から、視覚と触覚を複合させると、触覚による反応よりも、視覚による反応に近い結果が得られた高橋、2015)。これは、人間が五感を通じて外部情報を知覚する割合産業教育機器システム便覧、1972)が、視覚83.0 %、聴覚11.0 %、臭覚3.5 %、触覚1.5 %、味覚1.0 %と言われていることから、視覚からの情報が大きな影響力をもち、他の感覚で得られた情報に影響を及ぼすことが考えられる。

視覚の影響の有無について検討した研究では、材料を見ることで、温感触、冷感触がともに若干強調されるが、視覚の影響は大差ないと報告されている松井ら、1978)。ただ、この実験では、フォームポリスチレンから、アルミニウムまで温冷感の感じ方の幅が広い材料を使用していた。そこで、今年度は、若干温かい(例えば、キリ材)から、若干冷たい(例えば、オーク材)と感じる材料を用いることで、視覚からの情報が温冷感に及ぼす影響を分析する実験を行う予定である。視覚からの情報としては、材料を見る効果のほか、照明の照度や壁面の色・明るさなどが考えられる。本報告では、視覚情報が材料を触った時の温冷感に与える影響について研究を行うにあたり、温冷感に関する過去の研究を紹介する。

2. 温冷感に影響を与える指標(熱伝導率、厚み、室温、木材の断面)

各種材料の温冷感は、材料の熱伝導率という物理量によって、およそ説明できることが報告されている吉田、1963)。ただ、鉄やアルミニウム岡島ら、1976)のような熱伝導率の大きな材料では、厚みが温冷感に影響を及ぼし松井ら、1978) 松井ら、1980)、ガラスやアクリル程度の熱伝導率の材料では、実際に用いられる厚み以上では、厚み(2~10 mm)が温冷感に影響をほとんど及ぼさないと言われている(図 1)松井ら、1980)。しかし、前述の実験松井ら、1980)では、接触後2~3秒における感触温度を指標としているため、接触後の時間(~10分)が長くなると、熱伝導率が低い材料(スギ柾目板)であっても、材料の厚み(0.1~20 mm)が温冷感に影響を及ぼすことが報告されている大熊ら、1979)。以上より、材料の厚みの影響を無視するためには、接触時間を数秒程度と短くするか松井ら、1980)、接触時間と材料のサイズを決めた上で、裏面まで熱の影響が及ばないような厚みを設定する必要がある原田ら、1983)。また、室温が温冷感に影響を及ぼすことが報告されており、室温が皮膚温よりも高い時と低い時では、その材料の温冷感がほとんど逆になる(図 2)村越ら、1969) 松井ら、1978)。ただ、木材やプラスチックのように温度伝導率(=熱伝導率/(比熱・密度))が小さい材料(k=0.0013~0.002 cm2/sec)は、室温が10 ℃から50 ℃と変化しても、温冷感はそれほど変化しない松井ら、1978)。また、木材を使用する場合、同一の樹種であっても、断面によって熱伝導率および温冷感が異なることが報告されており、縦断面に比べて、木口面の方が、熱伝導率が2倍くらい大きく、冷たいと感じることが報告されている原田ら、1983)

上記の温冷感に影響を与える様々な指標に注意して条件設定をし、視覚情報が温冷感に与える影響の程度を明らかにすることで、経験的に知られている若干温かい~若干冷たいと感じる木材の温冷感に関する知見に、視覚情報の付与が及ぼす影響に関する知見を加えたいと考えている。そのために、主観的な温冷感、皮膚温、脳波、心電図、心拍数などの計測を行う。

参考文献

1) 吉田正昭:触覚の系統、日本女子大学紀要、13、pp. 47–68、1963.
2) 村越康、山川政司、斉藤幸子、吉田正和;熱伝導率が異なる物質の表面触(第2報)、人間工学、5、pp. 183–187、1969.
3)教育機器編集委員会編:産業教育機器システム便覧、日科技連出版社、1972.
4) 岡島達雄、棚橋勇、安田保、武田雄二:建築仕上げ材の感覚的評価に関する研究(その1)—触覚による温冷感の定量化—、日本建築学会論文報告集、245、pp. 1–7、1976.
5) 松井勇、笠井芳夫:仕上材の感触に関する研究 その1:温冷感触、日本建築学会論文報告集、263、pp. 21–32、1978.
6) 松井勇、笠井芳夫:仕上材の感触に関する研究 温冷感触:その2、日本建築学会論文報告集、294、pp. 1–12、1980.
7) 原田康裕、中戸莞二、佐道健:木材表面の熱特性と接触温冷感、木材学会誌、29、pp. 205–212、1983.
8) 高橋良香:スギ材が人の心理及び生理面に及ぼす作用、第192回定例オープンセミナー配付資料、2015.

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図 1. 厚みと感触温度の関係松井ら、1980)

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図 2. 室温変化時の各種材料の温冷感松井ら、1978)

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2015年7月21日作成,2015年7月27日更新

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