Research Institute for Sustainable Humanosphere

第162回定例オープンセミナー資料

開催日時 2013/01/16(水)
題目 マイクロ波で駆動する化学
Microwave-driven chemistry
発表者 堀越智 (上智大学理工学部物質生命理工学科・准教授)
関連ミッション ミッション 2 (太陽エネルギー変換・利用)
ミッション 4 (循環型資源・材料開発)

要旨

マイクロ波は「見たり、聞いたり、触れたり」できないことから、化学者からはマイクロ波が遠い存在に聞こえるようだ。しかし、私たちは日常的に電子レンジ を使っており身近な存在でもある。この電子レンジをアメリカやカナダの化学者が有機化学反応に使用し始めたのが 1980 年初頭のことである。電磁波の一種であるマイクロ波は光速度で移動し、複雑な形状の容器に入れたサンプルでも瞬間的に加熱することができるため熱伝導の時 聞が不要となる。したがって、既存の熱エネルギーに代わる新エネルギーとして、環境、医療、インク・塗装、食品、フイルム・紙、農業、木材などの分野で古 くから利用されてきた。

2000 年頃より、余分なものは使わず、欲しいものだけを合成する、いわゆる Green Chemistry が化学プロセスの分野で提唱されてきた。20 世紀まで続いてきた高い合成収率と選択性を求めた物質製造から、省エネルギーで溶媒や添加物を使わない(ゴミの出ない)、ものづくりが求められている。マ イクロ波はこれを可能にする有力な手段であると期待され、ここ数十年の間、マイクロ波を有機・無機合成に利用する試みが盛んになり、一種のブームになって いる。マイクロ波法の利点はどこにあるのであろうか?たとえば、化学反応の速度が数百倍になることや、反応に必要な触媒が 1 兆分の 1 に低減することができる。本講演では、マイクロ波効果を利用した化学反応について、触媒反応(水素獲得技術や光触媒反応)を中心に紹介する。

マイクロ波固体触媒反応による水素エネルギー獲得

我が国は石油資源のほとんどを海外に依存していることから、石油代替エネルギーへの転換を国策として進められてきた。その中で、水素エネルギーは、石油代 替エネルギーとして注目が集まっており、大量かつ安価に生産する技術が世界中で研究されている。常温でガス状態である水素を輸入するには輸送量の観点から 問題があり、液化技術が求められる。水素ガスを液化するには−250 ℃以下の低温にする必要があり大量輸送には向いていない。この解決法として、金属担 持触媒を用いて水素ガスを安定な有機物(主に有機溶媒)に化学結合させ、常温液化状態で輸送し、インフラ設備で再度金属担持触媒を用いて水素を取り出せれ ば問題を解決できる。この方式の問題点は触媒反応に必要な熱を省エネで供給できるかが重要であり、マイクロ波選択加熱を用いて行った。マイクロ波とヒー ター加熱を用いたテトラリンからの水素発生率を表 1 に示す。

表 1 マイクロ波および通常加熱を用いたテトラリンからの水素発生(反応時間60分・反応温度207 ℃)
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図 1 Pt/活性炭触媒を用いたテトラリンから水素獲得反応のイメージ図:(左)マイクロ波加熱・(右)ヒーター加熱

同じ反応時間や温度条件においてもマイクロ波を用いることで2倍以上の変換率と水素発生量が観測された。この理由として、テトラリンはマイクロ波の吸収が ないことから、ほとんど加熱は進行しないが、テトラリン中に分散させた Pt/活性炭(Pt/AC)触媒は、マイクロ波による選択加熱が進行し(図 1 左)、触媒表面温度が短時間で数百度に上昇する。実際に水素が発生する場所は触媒表面であり、マイクロ波加熱では選択的に触媒だけを加熱することができる ため、効率的に水素の獲得を行うことができる。一方、既存の方法では反応系全体を加熱しなければならないため(図 1 右)、非常に効率が悪い。さらに、同じ量の水素を獲得するために必要な消費電力を、マイクロ波加熱を用いることで 40 % 以上省エネできることが分かった。

マイクロ波光触媒法を用いた水処理

1980 年初頭より、二酸化チタン(TiO2)を環境触媒として光触媒として利用する試みが盛んに行われている。二酸化チタンを 環境浄化光触媒として利用するには「水・酸素・紫外線」が必要であるが、いずれも自然界にありふれた物ばかりであり、空気清浄、防汚、殺菌などの気相浄化 システムとして広く実用化されている。一方、水処理の分野では、分解速度の問題から大型化には向いていないことが知られている。筆者らは、この問題を解決 するべく、マイクロ波を光触媒活性の向上に利用してきた。

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図 2 各分解法によるローダミンB (RhB)水溶液の脱色比較
(a)分解前の RhB水溶液、(b)TiO2へ紫外線を照射(既存の光触媒分解法)、(c) TiO2へマイクロ波と紫外線を同時照射、(d) ヒーターで加熱をしながらTiO2へ紫外線を照射

各分解法を用いたローダミン B (RhB)色素水溶液の脱色比較を図 2 に示す。分解前の RhB 水溶液(図 2a)に比べ、既存の光触媒反応である紫外線のみを二酸化チタンへ照射する分解法では(図 2b)、若干の脱色が観測された。一方、マイクロ 波と紫外線を同時照射した複合法では(図 2c)、RhB の脱色が著しく進行し透明になった。すなわち、マイクロ波を用いることで二酸化チタン光触媒の問題点である分解時間を短縮させることに成功した。ここで、 マイクロ波の照射は水溶液の水温を上昇させることから、市販ヒーターによる加熱と紫外線照射を併用し、RhB の分解を行った(図 2d)。この時、マイクロ波照射と同じ温度条件でヒーター加熱を行ったが、二酸化チタンの触媒活性を促進させることはできず、既存の 熱源では得ることのできない効果がマイクロ波にはあることを示唆した。

マイクロ波と紫外線を二酸化チタンへ照射すると水質汚染物質の分解が著しく促進することが分かった。しかし、この装置をスケールアップするには紫外線光源 が問題になることが予想された。例えば、紫外線ランプをマイクロ波照射装置内に設置するとランプの電極がマイクロ波による金属放電を起こし、使用すること ができない。この問題を克服するために、マイクロ波をエネルギー源とした電極や電線を持たない紫外線ランプを開発し、これをマイクロ波励起無電極ランプ (Microwave discharged electrodeless lamp: MDEL)とした。MDEL は、合成石英製のアンプル内にマイクロ波で励起するガス(水銀、アルゴン、窒素など)を封入した構造になっており、電極や電線を必要としない。単にマイク ロ波が照射されている場所に置くだけで、マイクロ波エネルギーを紫外線に変えることができる。また、無電極であるためランプの寿命が長く(電極の劣化がな い)、複雑な形状や微小なサイズのランプの製作ができる利点がある。除草剤が含まれる水溶液の分解をこの TiO2/MDEL 法で行った。既存法に比べ約 86 倍の分解促進が示された。また、本方式は VOC やアルデヒドなどの気体の分解に対しても有効であることが分かった。

文献

堀越智、谷正彦、佐々木政子、図解でナットク マイクロ波化学・テラヘルツ波化学・光化学、日刊工業新聞社.

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