要旨
近年行われてきた火山噴火予知研究によって、多くの火山において噴火前に異常現象が捉えられるようになっている。しかしながら、異常現象が起きても噴火し ない火山や想定よりも小規模な噴火で終わる場合が多いことは、十分に意識されていない。異常現象の発生が噴火につながる場合とつながらない場合を分けるも のが何であるかを理解することは、噴火予測の精度を上げるために不可欠である。
こうした様々な事例は、最近の研究で火山活動の多様性として理解すべきであることが明らかになってきた。1 つの極端な場合は「マグマが容易に地表まで達して噴火する場合」であり、もう 1 つの極端な場合は「マグマの上昇が困難で噴火することなく地熱活動が卓越する場合」である。
マグマの上昇を規定している要因はまだ十分に明らかにされていないが、マグマと周辺の密度差、マグマ中のガス成分の散逸、応力場の 3 つが考えられている。講演では、その事例をいくつか示す。
マグマからのガス成分の散逸は、火口からの放出と地下における帯水層への散逸が考えられる。前者は、十分ではないが、二酸化硫黄など一部のガスについてい くつかの火山で遠隔測定が行われている。しかし、放出される火山ガス中で最も主要な成分である水については精度の良い測定は行われていない。後者は、従来 水文学的調査が進められてきたが、火山ガスの散逸量を推定するまでには至っていない。本研究者らは、電磁気学的な測定方法の開発を進めている。
いくつかの火山において、地下の電気伝導度が火口からの距離が遠くなるに従い低下する結果が得られている。この結果には、地下水中に溶存している火山ガスの効果と熱水変質による効果が重なっているので、その分離が課題である。
現在、阿蘇においてライダーによる水の放出量測定の試みが続けられており、その結果には火山学から大きな期待が寄せられている。九州には、阿蘇山のほかに も多様な火山活動形態を示す火山が系統的に分布している。九州は、火山活動の普遍的モデルを構築する上できわめて有利なフィールドであることも付け加えて おきたい。