Research Institute for Sustainable Humanosphere

第39回定例オープンセミナー資料

開催日時 2006/10/18(水)
題目 燃料・化学製品生産のための植物バイオテクノロジー
発表者 鈴木史朗 (京都大学生存基盤科学研究ユニット・助手)
関連ミッション ミッション 1 (環境計測・地球再生)
ミッション 2 (太陽エネルギー変換・利用)
共同研究者 梅澤俊明 (京都大学生存圏研究所・教授)

服部武文 (京都大学生存圏研究所・助手)

柴田大輔 (かずさDNA研究所・室長)

櫻井 望 (かずさDNA研究所・研究員)

要旨

現代社会の生活基盤は石油に全面的に依存しており、石油なしでは我々の生活は考えることはできない。しかしながら、昨今の原油価格の上昇、中東の社会情勢不安定化、化石資源使用による温室効果ガスの放出、各国で広がる資源ナショナリズムの高まりなどの問題は、とりわけ石油をほぼ100%輸入している日本にとって重大である。このような問題を克服するには、化石資源に依存した社会から、バイオマスなどの再生可能資源に基盤を置く社会への変容が不可欠である。このような動きはすでに先進各国で大きな流れとなってきており、例えば、米国では、ブッシュ大統領の 2006 年 1 月の一般教書演説に見られるとおり、石油依存体質からの脱却を目指し、明確な研究開発を目的とする政策が進行中である。この政策のひとつが、セルロース系バイオマスからバイオエタノールを生産するバイオリファイナリー・イニシアチブである。

バイオリファイナリーとは、バイオマス変換により、燃料、電力、付加価値のある化学製品を生産するプロセスおよびそのための設備と定義される。バイオマス変換過程には微生物、酵素のほかに燃焼やガス化、超臨界流体などを使った各種処理が含まれる。バイオリファイナリーのうち、すでに大規模に実用化されているものとして、バイオエタノール生産が挙げられる。現在のバイオエタノールは、サトウキビなどの糖質、トウモロコシなどのデンプン質原料から、糖化やエタノール発酵を経由して生産されているが、原料作物は食用や飼料用でもあり、将来ガソリンを十分代替するだけの賦存量がない。そこで、これまで使われていなかったセルロース系非食用バイオマスを含めてバイオエタノール生産を行なおうとする各種取り組みがなされている。行われている研究開発としては、遺伝子組換えによる糖分やセルロースの生産性を改善するものから、細胞壁の破壊プロセスなどの前処理や微生物の分子育種など、バイオエタノール生産最適化のための広範囲にわたる研究が進められている。

地球上のバイオマスの 95 % は森林資源であり、その大部分は樹木の木部である。賦存量の約 10 % が毎年再生産され、この量は炭素換算で世界のエネルギー消費量の約 10 倍にも及ぶ。しかも森林生産は食料や飼料生産との競合が少ない。従って、この莫大な森林資源を従来のように建材や紙・パルプとして利用するだけでなく、バイオ燃料や各種化学製品生産のためのバイオリファイナリーを通じて活用していくことが全人類的かつ地球的な課題と思われる。この活用にあたり、木部の生産性を高め、バイオリファイナリーに適した樹木を生産するために、特に樹木を対象とする植物バイオテクノロジーが担う役割は大きい。

樹木の木部は、セルロース、リグニン、ヘミセルロースの三大成分から構成されている。草本であるシロイヌナズナなどにおける集中的な研究により、これらの成分ができるまでの化合物の変化、つまり、「代謝」に関与する酵素遺伝子は一部を除き大方明らかになってきている。しかし、例えば、いつ、どこで、どのようにこれらの成分の「合成開始のスイッチ」が入り、「スイッチが入った」という情報が植物体内で伝達され、制御されているのかといったメカニズムは非常に複雑でほとんど明らかになっていない。このような一見して非常に基礎的であるけれども、木質形成の根幹に関わる知見は、バイオテクノロジーを用いた効果的かつ精緻な品種改良によって、実用的な改良樹木を作出するには不可欠である。以上のような立場から、情報科学の理論を取り入れたシステム生物学という新しい手法と、従来の個別的な機能解析を併用することにより、ゲノム配列が明らかとなっているシロイヌナズナの花茎を木部のモデルとして用い、上記の三大成分を含む木部形成の制御機構の解明を目指している。

シロイヌナズナは草本であるが、それゆえ、樹木に比べ生育期間が短く、場所を占有せず、また非常に多種の遺伝子破壊変異株が既に作成され、すぐ利用できるうえ、マイクロアレイといった網羅的遺伝子発現解析のプラットフォームが整備され、遺伝子組換えが容易であるなど、数多くの利点を有するため、樹木と草本で共通する代謝を理解する場合には非常に適した材料である。しかし、二次肥大成長や二次木部に特有のさまざまな種類の細胞への分化、草本に比べ肥厚し、複雑な細胞壁の形成などの樹木独自の生命現象は、樹木を使わなければ解明できない。そこで、樹木で研究基盤整備が最も進んでいるポプラのリソースを活用した研究も予定している。さらに、東南アジアで実用造林木として既に利用されているアカシアなどに成果を適用して実用化するためには、同様な研究基盤が必要であるため、発現遺伝子配列 (EST) データベースの構築と形質転換・個体再生系の確立のための研究を進めている。

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