Research Institute for Sustainable Humanosphere

第38回定例オープンセミナー資料

開催日時 2006/10/11(水)
題目 カテキンおよびリグナンのヒトマトリックスメタロプロテイナーゼ 7 (MMP-7) に対する阻害作用
—構造機能相関およびガン転移抑制に対する期待—
発表者 井上國世 (京都大学農学研究科食品生物科学専攻・教授)

要旨

マトリックスメタロプロテイナーゼ (MMPs) は、ガンの転移や浸潤に関与すると考えられており、強力で安全な阻害剤の開発が求められている。われわれはヒトの大腸ガンや脳腫瘍などで高度発現が認められる MMP-7 について、その反応機構や構造特性について検討してきた [1–4]。本研究では、10 種類の緑茶カテキンと 9 種類のリグナン (dibenzylbutyrolactone lignan) を用いて検討した MMP-7 に対する阻害効果について報告し、カテキンおよびリグナンの構造と MMP-7 阻害活性との関連について考察する [5, 6]。

ヒト MMP-7 は、プレプロ型として大腸菌体内で発現させ、インクルージョンボディに蓄積されたプロ型酵素 (28 kDa) を可溶化、リフォールディング後、水銀試薬を用いて活性化し、成熟型 MMP-7 (19 kDa) を得た [7]。酵素活性は合成蛍光基質 MOCAc-PLGL(DPa)AR を用いて、50 mM Hepes 緩衝液 (10 mM CaCl2含有)、 pH 7.5、25 ℃にて測定した。生成物 MOCAc-PL を 328 nm で励起し、383 nm の発光を観測した。

カテキンは、阻害活性 (IC50) に従い、3 グループに分類された。(+)-catechin (C), (-)-C, (+)-epicatechin (EC), (-)-EC では IC50 > 1 mM; (-)-gallocatechin (GC), (-)-epigallocatechin (EGC) では IC50 > 50 µM ; 3 位にガロイル基をもつ (-)-catechin-3-gallate (CG), (-)-epicatechin-3-gallate (ECG), (-)-gallocatechin-3-gallate (GCG), (-)-epigallocatechin-3-gallate (EGCG) では IC50 = 0.4–4 µM であった。ECG が最も強い阻害活性を示した (IC50 = 0.4 µM)。緑茶に最も豊富に含まれる EGCG の IC50 は 4 µM であった。ガロイル基を C へ導入すると阻害活性は 1 000 倍以上も上昇した。EGCG の阻害様式は非拮抗型であり、酵素の活性部位とは別の阻害剤結合部位に結合し、阻害を引き起こすと考えられた。

検討したリグナンの IC50 は 50 ないし 280 µM であった。リグナン合成の初発物質 seciosolarisiresinol は全く阻害活性を示さなかった。これに dibenzylbutyrolactone 環を導入した matairesinol (MAT) は弱い阻害活性を示した (IC50 = 280 µM)。MAT の A 環に methylenedioxy 基を導入すると、わずかな阻害活性の上昇が見られたが、B 環に導入すると 5–6 倍も上昇した。また、B 環 C-5 位に水酸基を導入すると 5–6 倍上昇した。MAT の A 環に methylenedioxy 基、B 環に水酸基が導入された 5-hydroxypluviatolide (HPLU) が最も強い阻害活性を示した。リグナンの阻害活性には、dibenzylbutyrolactone 環と B 環が重要であることが示された。HPLU が拮抗型阻害様式を示したことから、リグナンによる阻害は MMP-7 活性部位に結合することにより引き起こされるものと考えられる。

カテキンやリグナンのような植物成分がガンの抑制に有用であることが示された。これら化合物の MMP-7 阻害活性は、MMP-7 の活性制御機構の解析や活性部位および阻害剤結合部位の構造探査における好適な手段となるとともに、より強い阻害剤の探索において有用な示唆を与えること が期待される。

文献

  1. K. Inouye, H. Tanaka, and H. Oneda: J. Biochem. 128, 363–369 (2000)
  2. H. Oneda and K. Inouye: J. Biochem. 128, 785–791 (2000)
  3. H. Oneda and K. Inouye: J. Biochem. 129, 429–435 (2001)
  4. Y. Muta, H. Oneda, and K. Inouye: Biochem. J. 386, 263–270 (2005)
  5. H. Oneda, M. Shiihara, and K. Inouye: J. Biochem. 133, 571–576 (2003)
  6. Y. Muta, S. Oyama, T. Umezawa, S. Shimada, and K. Inouye: J. Agric. Food Chem. 52, 5888–5894 (2004)
  7. H. Oneda and K. Inouye: J. Biochem. 126, 905–911 (1999)

 

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