Research Institute for Sustainable Humanosphere

第11回(2005年度第3回)定例オープンセミナー資料

開催日時 2005/07/29(金)
題目 植物を用いた内分泌攪乱物質の環境浄化
発表者 廣岡孝志 (京都大学生存圏研究所・ミッション専攻研究員)
関連ミッション ミッション 1 (環境計測・地球再生)
共同研究者 矢崎一史 (京都大学生存圏研究所)

要旨

内分泌攪乱物質は非常に低い濃度で人や生態系へ影響を与えることが疑われている物質であるが、近年、こういった物質による環境汚染が問題視されている。特にこれら内分泌攪乱物質の多くは、自然界における分解作用に対して高い抵抗性を有していることから、環境中に長期間残留し、生態系を構成する生物種に対し多大な悪影響を与えることが懸念されている。従って、これらの環境浄化技術の開発は、人の健康を守るだけでなく生態系の保全においても重要な課題である。

近年、植物を用いて汚染環境を浄化する phytoremediation が注目されている。光独立栄養生物である植物は、大気中の CO2 を炭素源として浄化に必要な植物体バイオマスを維持・増殖できること、また浄化後その回収が比較的容易であるなどの利点を持つ。従って、 phytoremediation は、低濃度・拡散汚染を引き起こす物質の原位置での浄化に適しているといえる。一方、自然環境中において、植物の根圏領域には多種多様な有用微生物が共生している。これらは、植物根から分泌される有機物質を炭素源として利用する代わりに、植物に対して微量元素の取り込み促進や種々の環境ストレスへの耐性向上などの恩恵を与えている。現在、これらの相互作用により植物の生育を促進する根圏微生物群 (Plant Growth-Promoting Rhizobacteria, 以下 PGPR と略す) の Phytoremediation への利用が注目されつつある(Fig. 1)。しかし、内分泌攪乱物質の環境浄化に関する応用研究例は少ない。本研究では、より実用的な内分泌攪乱物質の環境浄化技術を開発することを目的に、まず、植物と根圏微生物 PGPR との共生系を利用した内分泌攪乱物質の環境浄化技術について研究を行ってきた。また、赤色色素を分泌するムラサキ毛状根を用いて、植物根から分泌される二次代謝物質が根による内分泌攪乱物質の吸収/捕集に与える影響についても検討している。

S0011_Hirooka

研究経過

1. 植物・根圏微生物共生系による内分泌攪乱物質の環境浄化技術の開発

内分泌攪乱物質に対して吸収・蓄積能力を持つ有用植物種の選抜とその能力の評価を行ってきた。具体的には、草本類としてトールフェスク (Festuca arundinacea Schreb.)、ライ小麦 (Triticum sp. × Secale sp.)、アルファルファ (Medicago sativa L.)、大豆 (Glycine max Fukujihi)、アサタヌキマメ (Crotalaria juncea) について、木本類としてタバコ (Nicotiana tabacum (cv. Samsun NN)) を、内分泌攪乱物質 atrazine (AT)、2,4-dichlorophenoxyacetic acid (2,4-D)、diethylphthalate (DEP) を含有する水溶液に暴露させ、試験開始時と終了時の溶液中の各内分泌攪乱物質の濃度、植物の根、茎、葉の各部位に蓄積している内分泌攪乱物質の量を測定し た。その結果、各植物が、根を介して AT、2,4-D、DEP を水溶液から除去できることを確認できた。また、Crotalaria juncea について根から吸収された AT の植物体内分布を調べた結果、吸収された AT の大部分は根と葉に分配されている可能性があることが分かった。現在、各植物について吸収された内分泌攪乱物質の植物体内分布についても調べている。

2. ムラサキ毛状根の内分泌攪乱物質吸収量に対する二次代謝物質シコニン分泌の効果

既に昨年の検討において、ムラサキ毛状根による培養液からの AT の除去量が、シコニン生産により増加する可能性を発見した。しかし、この実験では、毛状根の状態があまり良くなかった。そこで、本年度では、寒天培地を用いて増殖能力が回復するまで培養したムラサキ毛状根を用いて、再度、毛状根によるAT除去に対するシコニン生産・分泌の効果とその作用機序についての検討を行った。その結果、シコニンを生産している毛状根の方が、非生産株よりも高い AT 除去率を示した。

今後の検討

1. 植物・根圏微生物共生系による内分泌攪乱物質の環境浄化技術の開発

今回、検討した植物をホストとして、根圏微生物との共生系構築とその内分泌攪乱物質処理能力の評価を行っていく。特に以下の組み合わせを中心に検討していく。

  • マメ科植物、特に大豆に共生する根粒細菌 Bradyrhizobium japonicum と大豆
  • 非マメ科植物に共生する窒素固定細菌 Azospirillum brasilense とライ麦もしくはトールフェスク

2. ムラサキ毛状根の内分泌攪乱物質吸収量に対する二次代謝物質シコニン分泌の効果

ムラサキ毛状根の AT 吸収に対するシコニン生産の作用機序について、以下の検討を行う。

  • 凍結乾燥もしくは薬剤処理により、死滅させた毛状根の AT 吸収へのシコニンの効果→根表面のシコニン蓄積による、AT の根内部への浸透。
  • 吸着量の増大の確認。
  • AT と同じトリアジン系除草剤 simazine について、毛状根による吸収とそれに対するシコニン生産の効果の確認→ AT と simazine の構造、物性の違いと本効果の関係を見る。

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