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共同利用・共同研究拠点活動の成果概要

更新日: 2015/08/19

生存圏研究所は平成22年度に共同利用・共同研究拠点として認定され、以後、従来の全国・国際共同利用に加え、共同研究をも積極的に推進しています。以下、当拠点の目的と概要、生存圏科学とは何か、生存圏研究所が目指すところ、拠点としての実績、および将来構想について取りまとめました。

もくじ

1 拠点の目的と概要
2 生存圏科学とは何か
3 生存圏研究所が目指すところ
4 拠点としての実績
5 将来構想
5.1 今後の拠点としての方向性(概要)
生存圏科学に関する共同利用・共同研究の充実に向けた取り組み
生存圏科学の深化と社会還元に向けた取り組み
生存圏科学の国際化に向けた取り組み
5.2 今後期待されるアウトカム

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1 拠点の目的と概要

生存圏研究所は、人類の生存を支える「圏」という概念を重視し、生活圏、森林圏、大気圏、宇宙圏についてそれぞれの研究を深化させると同時に、それぞれの有機的連関に広がりをもたせ、生存圏の正しい理解と問題解決型の開発・創成活動に統合的、流動的かつ戦略的に取り組み、人類の持続的発展と福祉に貢献します。

生存圏科学に関する研究および人材育成を行うことを目的に、中核研究部、開放型研究推進部、学際萌芽研究センターからなる問題解決型の全国共同利用型戦略的研究所として、人類の生存に関する直近の課題に対し、具体的に4つのミッションを設定し、研究所内外の関連研究者と協力体制をとりながらその課題解決に取り組んでいきます。

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2 生存圏科学とは何か

21世紀には環境、エネルギー、宇宙利用、資源・材料をはじめ人類の生存を脅かす様々な困難が起こっており、それらの解決が喫緊の課題となっています。

生存圏研究所は、人類の生存を直接支える領域を「生存圏 (Sustainable Humanosphere)」と定義し、これが「宇宙圏」、「大気圏」、「森林圏」、および「生活圏」を連結することで構成されると考えます。ここで、「圏」は空間を指すだけでなく、そこに生起する様々な現象ならびにそれらに関係する科学・技術を含みます。また、これら4圏は独立して存在するものではなく相互に影響を及ぼしていると捉えています。そして、生存圏が内包する多くの問題のうち、人類の生存に関わる喫緊の課題として、環境、エネルギー、宇宙利用、資源・材料に関する先端研究を4つの生存圏科学ミッションと定義して推進してきました。これらは理・工・農学にまたがる多様な学門領域を基盤としており、個々人の専門とする領域という観点からは一見ばらばらに見えるかもしれませんが、人類の持続的生存を支える場を作り出すという共通認識を持っています。すなわち、生存圏研究所では、人を中心とした生存圏の現状の理解(診断)と問題への解決策(治療)の提示に対して統合的かつ戦略的に取り組み、持続発展可能な社会構築につながる道を見出すための新しい学際融合科学として「生存圏科学」を位置づけ、これを創成し社会貢献することを目指しています。

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3 生存圏研究所が目指すところ

個別の研究の深化だけでは人類生存に向けた課題の解決策は得られません。科学技術の発展・深化にともなって研究分野の細分化が進み研究者のタコツボ化が進んでおり、もはや従前の細分化された学問では対処できないところに来ているといえます。この現状認識のもと、科学研究と技術開発を調和的に発展させながら、包括的な視点から問題点の相互関係を理解し解決する問題解決型のアプローチ(ルツボ化)が必要とされています。したがって、各専門領域の成果を統合して持続発展可能な社会構築につながる道を示すことが拠点としての役割です。

拠点としての具体的な活動としては、共同利用・共同研究拠点の機能を最大限活かし、多様な分野の専門家と連携して、生存圏の現状を診断し、課題を解決する研究・教育活動を推進します。従来、木質科学、レーダー大気科学、マイクロ波応用科学の分野で全国の中核研究機関としての役割を果たしてきましたが、これらの優位性を活かしつつ同時に融合的な研究課題を開拓して生存圏科学の創成を目指します。そのためにそれぞれの専門性を持ったコミュニティーから研究者が共同研究のために集まり、課題解決に向けた多様な研究が発展するような場を提供します。具体的には異分野の研究者間での情報交換を促進するために、生存研が拠点活動の総括シンポジウム(ミッションシンポジウム)を定期開催しています。同日に学内外の有識者からなる運営委員会を開催して、ミッションの成果を検証し今後の活動の指針を議論しています。さらに、生存圏シンポジウム、オープンセミナー、生存圏研究所が発刊する紀要や広報物、ホームページなどを通じ、研究活動の方向性と成果の共有をおこないます。また、生存圏科学は社会還元を目指していることから、民間企業や市民を会員に含めた「生存圏フォーラム」を通じて成果発信にもつとめています。

さらに、解決すべき問題は時代とともに変わってゆくと考えられますが、それらに才覚を持った研究者を当拠点に招請し、それぞれの課題に取り組み、問題解決を促していきます。そのために運営委員会、関連学協会からの意見集約に加え、国内外の有識者による外部評価を踏まえて、生存圏科学ミッションを6年の中期ごとに見直し、当拠点の守備範囲を広げていきます。このような広範な学問分野の連携と実践によって人類が進むべき道の選択を導き出し、持続的発展可能な社会を構築することが可能となるとわれわれは考えています。

以上、当拠点ではミッションのもとでの個別の研究課題と手法の多様性を尊重していますが、持続発展可能社会の実現を目指す生存圏科学の指導原理を相互理解するよう主導しています。

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4 拠点としての実績

生存圏研究所では人類の生存を支える4つの圏について、それぞれの圏での研究を深化させると同時に、圏間の有機的な連環を意識しながら4つのミッション(「環境計測・地球再生」、「太陽エネルギー変換・利用」、「宇宙環境・利用」、「循環型資源・材料開発」)を推進しています。これら4ミッションは個別の4つの圏に1対1に対応するのではなく、圏を横断して具体的な研究テーマが設定されています。また、最近4つの研究ミッションにまたがる課題設定型研究プロジェクトとして「生存圏科学の新領域開拓:ロングライフイノベーション」を進めています。

平成22~26年度で実績が上がっている主要な研究テーマの中から17課題を以下に挙げます。
(1)宇宙環境利用のための理学および工学研究
(2)生存圏フラッグシップ共同研究:バイオナノマテリアル共同研究
(3)木質ラーメン架構の改良技術
(4)宇宙太陽発電所SPSとマイクロ波無線電力伝送に関する研究
(5)MUレーダーによる大気の精測
(6)衛星からの大気環境計測プロジェクトの推進
(7)インドネシアにおける赤道大気研究の推進
(8)バイオマス由来の白金代替固体高電子型燃料電池用電極触媒の製造方法開発
(9)重金属を輸送するトランスポータ
(10)バイオマス由来の物質のみから成る木材接着技術の開発
(11)生存圏科学の新領域開拓:ロングライフイノベーション共同研究
(12)バイオマス・物質変換のためのマイクロ波高度利用共同研究
(13)アカシア産業林の持続的・循環的生産システム構築の基盤技術の開発
(14)日本におけるシロアリ研究の最先端をとりまとめた『シロアリの事典』の刊行
(15)生存圏データベース(材鑑調査室)全国・国際共同研究
(16)水星探査ミッションの推進と搭載観測器開発
(17)東日本大震災対応研究(マイクロ波による震災瓦礫の無害化と微細気泡水による除染)

各課題の概要説明
共同利用・共同研究拠点における平成22~26年度の取組実績

以上の研究テーマはミッションを軸として位置づけられており、それぞれの研究は、圏をまたがって進められています。その圏の広がりは下図に示されています。

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各研究課題とそれぞれが関連する圏との対応を示します。

また、主要17課題が4つの圏とどのように関連しているか、また4つのミッションおよび1つの新ミッションのうちどれと密接に関わっているかという観点で整理すると以下のようになります。これらの課題が圏やミッションをまたがり、圏間の融合の下で進んでいることがわかります。

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各研究課題とそれぞれが扱う圏との対応を示します。主たる圏には◎、副の圏には○をつけています。

これらの中でも特に圏間融合の成果が認められるものとしては、マイクロ波応用に関する研究(4)大型大気レーダーによる環境計測(5, 7)バイオマス生産・利用研究(12)アカシア産業林の持続的・循環的生産システム構築の基盤技術の開発(13)ロングライフイノベーション共同研究(11)などがあり、圏間の連環が進み具体的な成果が上がっています。特に、マイクロ波応用研究では、一般に通信に使われている電波をエネルギー伝送に用いるという革新技術について、新たに導入した大型共同利用設備により研究しており、電気自動車の充電、室内での無線充電、マイクロ波を用いた震災瓦礫処理などに活用されています。さらに、電磁波の生体影響に関する国際的な規制基準制定に関与すると共に、マイクロ波反応により木質バイオマスをバイオエタノール、あるいは機能性材料に変換する研究を展開し、「マイクロ波化学」という学際分野が開拓されました。これらの研究では、大型資金による産学連携実証研究が展開されています。また、アカシア産業林に関する研究では、成長が早い熱帯樹であるアカシアの産業林について、持続的生産システム構築に関する研究が、4圏をつなぐ融合プロジェクトとして推進され、JST/JICA事業のSATREPSプロジェクトとして、「荒廃熱帯草原の植生および環境回復」を図る国際共同研究に発展しています。

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5 将来構想

5.1 今後の拠点としての方向性(概要)

人類の生存を支え、人類と協調的に相互作用する場を生存圏と定義し、生存圏の現状を精確に診断して評価することを基礎に、生存圏が抱える諸問題に対して、包括的視点に立って解決策(治療)を提示する学問分野「生存圏科学」の確立を目指し、持続発展可能な社会の構築に貢献することを目的とします。

具体的には、次の3つの取り組みを通じて、大学・研究機関等との連携を深めて生存圏科学のコミュニティーを拡充します。また、当研究所に集う研究者の海外研究リソースへのアクセスを助けることで国際化を促進し、世界を先導する生存圏科学の共同利用・共同研究拠点として機能を強化していきます。

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生存圏科学に関する共同利用・共同研究の充実に向けた取り組み

生存圏研究所が行う共同利用・共同研究は年間の総課題数300件に達しています。この規模を維持しつつ以下の「生存圏科学の深化と社会還元に向けた取り組み」、「生存圏科学の国際化に向けた取り組み」に即して、国内外の大学、研究機関との連携を強化することにより、持続的な生存圏の確立に資するイノベーションを創出し、生存圏科学という新パラダイムの確立を目指します。なお、既に挙げつつイノベーションの成果を下に示します。

大型大気レーダー
・産学連携による先端レーダーセンシング技術の創出
・IEEEマイルストーンに選定

バイオマテリアル
・軽量・高強度のセルロースナノファイバーを用いた循環型産業資材製造技術の創出
・循環型産業資材パイロットプラントの建設

宇宙太陽発電・ワイヤレスエネルギー伝送
・太陽エネルギー利用の高度化としての宇宙太陽発電の産学官連携
・マイクロ波エネルギー伝送によるワイヤレス・電池レス応用技術の創出

マイクロ波高度利用によるバイオマス・物質変換
・マイクロ波反応によるバイオマス燃料、機能化学品を生産プロセス技術の創出
・バイオエタノール、バイオマス由来高機能ポリマーを生成するテストプラントの建設

熱帯産業林の持続的生産利用に関する多角総合的共同研究
・熱帯大規模産業造林(アカシアマンギウム)による循環的木質バイオマス資源の確保
・アカシアマンギウムからのタンニンなど高付加価値物質生産技術の創出

バイオマス由来生理活性物質
・木竹酢液抗ウイルス活性物質の特定とその応用による人の健康増進に資する生理活性物質生産分野の創出

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生存圏科学の深化と社会還元に向けた取り組み

従来の4つの生存圏科学ミッションを再編するとともに、平成23~27年度に実施された新領域研究の成果を発展充実させた第5の生存圏科学ミッション「高品位生存圏(Quality of Future Humanosphere)」を設定して生存圏科学の展開を図ります。

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生存圏科学の国際化に向けた取り組み

国内外の共同研究機関との連携を束ねた海外研究拠点「生存圏科学のアジアリサーチノード(以下、アジアリサーチノード)」を整備します。「赤道MUレーダー」を新設して、特定教員、研究員が駐在する海外拠点ラボと大型設備の一体的運用により、国際共同利用・共同研究の推進と、海外拠点の機能を活用した人材育成を同時に行います。

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以上により、新しいパラダイムである「生存圏科学」が包摂する幅広い学術分野に関わる国内外の大学・研究機関等と連携し、同時にアジアを中心に国際展開を進めて、融合的学問分野の確立をめざします。世界的にも傑出した科学技術に関する産官学共同研究を実行し、成果を実証するテストプラント建設をはじめ産学連携を進めます。

今後の拠点の方向性に関する詳細説明

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5.2 今後期待されるアウトカム

生存圏科学の成果は、生存圏の現状に対する診断と、人類の持続的発展のための処方箋を与えるものであり、その社会的意義は非常に高い。また、国内外の共同利用、共同研究を通して推進される研究成果から、生存圏環境の新計測技術、新素材、新エネルギー、リサイクル等の先端技術の開発・応用などが期待でき、産官学連携によるイノベーションの創出に繋がり得ます。本事業は、大学の教育研究成果の向上に直結する、極めて高い改善効果を期待できます。即ち、全国・国際共同利用研究の展開によって、生存圏科学の優れた研究成果を効率良くあげることができます。同時に、本事業は、研究者間、研究分野間の交流を促進し、そこから全く新しい研究ニーズとシーズが数多く誕生します。また、大学院生を積極的に参加させ、教育することにより、生存圏科学という重要な学問体系を身につけた、優れた人材が全国ならびに国際的に多数輩出されます。

当研究所は30年を超える経験と革新技術によって大型大気レーダーの源流を創ってきました。わが国は、当研究所のMUレーダーと赤道大気レーダー、南極昭和基地の大型レーダーPANSYと北極域のEISCAT参加(国立極地研究所)により、世界で唯一、全球の大型レーダー観測網を有します。諸外国が独自の大型レーダー計画を推進しつつある現在、赤道MUレーダーの整備によって、わが国の優位性を確保し、大気研究のリーダーシップをとり続けることが可能となります。さらに勃興しつつあるアジアの研究者と連携して赤道ファウンテンの解明を進めることで、生存圏アジアリアサーチノードの強化と、生存圏科学の発展に大きく寄与することができます。

参考資料

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2015年8月13日作成,2015年8月19日更新

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