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ミッション5-3「日常生活における宇宙・大気・地上間の連関性」
令和3年度の活動

更新日: 2022/06/01

課題1 衛星測位システム(GNSS)を用いた大気圏の変動特性の解明

研究代表者:矢吹正教、橋口浩之(京都大学 生存圏研究所)
共同研究者:津田敏隆(京都大学 生存圏研究所)

本研究では、汎地球測位衛星システム(GNSS)の測位データを大気計測に用いる「GNSS気象学」に関する実証観測とデータ解析を通じて、降水過程や気候変動の理解に資する研究を推進する。2021年度は、インドネシア・赤道大気レーダーで取得したデータを用いた解析より、各衛星群(GPS、GLONASS、QZSS)から求まる可降水量推定精度の評価、および観測方向の違いによる水蒸気分布の特徴について調べた。また、2016年~2019年にかけて行った信楽GNSS稠密観測網のデータベースを作成したほか、複合観測に有効な水蒸気ライダーデータの評価を実施した。

図 GNSS稠密観測網で捉えた豪雨発生前後の水蒸気水平分布の変化の例 (滋賀県甲賀市信楽町, 2018.7.2 16:00-16:40JST)

成果発表

  1. 松木一人, 内保祐一, 竹内栄治, 長谷川壽一, 矢吹正教, 波長266nm光源を用いた水蒸気ラマンライダーの開発, レーザー学会学術講演会第42回年次大会, 2022年1月12-14日.

課題2 GPSを用いた電離圏3次元トモグラフィ

研究代表者:山本 衛(京都大学 生存圏研究所)
共同研究者:齊藤昭則(京都大学 大学院理学研究科)、斉藤 享(電子航法研究所) 

GPS観測網GEONETを用いた電離圏電子密度の3次元トモグラフィの開発に取り組んでいる。電子航法研究所が全国200点から得ているリアルタイムデータを用いたリアルタイム解析を実施中で、毎日の日本上空の電子密度分布を緯度・経度方向の分解能1度×1度、高度分解能20km(全て最大値)で毎15分ごとに得ている。MUレーダーによる電離圏電子密度観測とトモグラフィ解析との比較によると、両者が比較的よく一致するが、トモグラフィによる電離圏高度が高すぎる傾向がある。今年度は、従来のGEONETからのGPS-TECデータに加えて地上のイオノゾンデの一般的な読み取りパラメータを付加する新しい解析法を開発した1)。結果は良好であり、電子密度の大きさと高さの両方について、通常状態の電離圏に対しても磁気嵐時に対しても、確からしい結果をもたらすことが明らかになった2)3)。また、最近に普及し始めた低価格(数万円)の2周波数GNSS受信モジュールを用いたGPS-TEC観測装置を開発中であり、電離圏研究に利用可能な良好なTECデータが得られた4)。さらに、2022年7~8月に打上げ予定の観測ロケットS-520-32号機に搭載する2周波ビーコン送信機とアンテナの開発を実施した5)

左図:GPS-TECトモグラフィの概念図、右図:3次元リアルタイム・トモグラフィ解析の例

成果発表

  1. Ssessanga, N. et al., Complementing regional ground GNSS-STEC computerized ionospheric tomography (CIT) with ionosonde data assimilation, GPS solutions, GPSS-D-20-00186R4, May 2021.
  2. Ssessanga, N. et al., Assessing the performance of a Northeast Asia Japan-centered 3-D ionosphere specification technique during the 2015 St. Patrick’s Day geomagnetic storm, EPS, 73(1), doi:10.1186/s40623-021-01447-8, 2021.
  3. Ssessanga, N., M. Yamamoto, S. Saito, Assessing the performance of a Northeast Asia regional ionosphere specification technique during the 2015 St. Patrick’s Day solar storm, 日本地球惑星科学連合2021年総会, 2021年6月4日.
  4. 河上晃治, 山本衛, 斎藤享, N. Ssessanga, 複数のGNSS衛星群を用いる低コストなTEC観測システム開発, 第150回地球電磁気・地球惑星圏学会講演会, 2021年11月2日.
  5. 山本衛, 黒川浩規, 観測ロケットから地上までの電離圏全電子数観測システムの開発, 第150回地球電磁気・地球惑星圏学会講演会, 2021年11月2日.

課題3 日本の電力網を流れる地磁気誘導電流(GIC)計算モデルの開発

研究代表者:海老原祐輔(京都大学 生存圏研究所)

共同研究者:大村善治(京都大学生存圏研究所)、後藤忠徳(京都大学工学研究科)、中村紗都子(京都大学生存圏研究所)、亘慎一(情報通信研究機構)、菊池崇(名古屋大学名誉教授)、田中高史(九州大学名誉教授)、藤田茂(情報・システム研究機構)

磁気嵐など地磁気が乱れると送電線に地磁気誘導電流(geomagnetically induced current, GIC)が流れ、送電設備に対して深刻な影響を与えることがある。地磁気緯度が低い日本ではGICの影響が顕在化する頻度は極めて低いと考えられるが、過去に発生した巨大フレアや巨大磁気嵐の記録を鑑みるとゼロリスクであるとは言い切れない。1859年に発生した観測史上最大規模の磁気嵐(キャリントン事象)の再来を想定し、我々が実測している3箇所の変電所について推定したところ、最大89±30 アンペアのGICが流れることが分かった。2003年の大磁気嵐時に129アンペアのGICが流れたある電力設備(経済産業省, 2015)については、北米電力信頼度協議会(NERC)が定める熱設計上の基準(225アンペア)を上回る約496±174アンペアのGICが流れることが推定された。一般に日本の送電網はGICに対して堅牢であり、基準を超えたGICが流れたとしても直ちに異常が生じるものではないが、キャリントン級あるいはそれ以上の超巨大磁気嵐に対して注意が必要かもしれない。

成果発表

  1. Ebihara, Y., S. Watari and S. Kumar, Prediction of geomagnetically induced currents (GICs) flowing in Japanese power grid for Carrington-class magnetic storms, Earth, Planets and Space, 73:163, doi:10.1186/s40623-021-01493-2, 2021.

課題4 MUレーダー・小型無人航空機(UAV)観測による大気乱流特性の国際共同研究

研究代表者:橋口浩之(京都大学生存圏研究所)
共同研究者:Lakshmi Kantha, Dale Lawrence (University of Colorado, USA), Hubert Luce (京都大学生存圏研究所), Richard Wilson (LATMOS, CNRS, France), 矢吹正教(京都大学生存圏研究所)

乱流混合は熱や物質の鉛直輸送に寄与する重要なプロセスであり、これまで、MUレーダーを用いたイメージング(映像)観測により大気乱流の発生・発達・形成メカニズムや、メソ~総観規模現象との関連が研究されてきた。近年の小型無人航空機(Unmanned Aerial Vehicle; UAV)の進歩により、遠隔操作による上空の計測が従来よりも容易に行えるようになりつつあり、日米仏の国際共同研究により、2015~2017年の6月にコロラド大で開発された気象センサーを搭載した小型UAVとMUレーダーとの同時観測実験(ShUREX(Shigaraki, UAV-Radar Experiment)キャンペーン)を実施した。図はUAVが強い乱流中を水平飛行した時に得られた気温の周波数スペクトルを示す。-5/3乗則に従うスペクトルが得られており、風速スペクトルでも同様に-5/3乗則に従っていた。

UAV水平飛行で得られた気温の周波数スペクトル。赤線は傾き-5/3乗を示す。[Luce et al., 2019]

成果発表

  1. H. Hashiguchi, Phased Array Atmospheric Radar, Invited talk, International E-Conference on Advances in Information Technology and Research, Online, May 31-June 1, 2021.
  2. Hubert Luce, Abhiram Doddi, Dale Lawrence, Tyler Mixa, Masanori Yabuki, Koji Nishimura, and Hiroyuki Hashiguchi, Characterization of atmospheric turbulence at Syowa station from Datahawk UAVs, stratospheric balloons and the PANSY radar, Invited talk, The 12th Symposium on Polar Science, Online, November 15-18, 2021.

課題5 宇宙からの高エネルギー粒子降り込みと中性大気変動

代表者氏名:栗田怜(京都大学生存圏研究所)
共同研究者:小嶋浩嗣(京都大学生存圏研究所)、三好由純(名古屋大学宇宙地球環境研究所)、斉藤慎司(情報通信研究機構)

宇空間で自発的に放射される電磁波により、地球大気へ高エネルギーの粒子が降り込む。地球大気に降り込んだ粒子は超高層大気の異常電離・加熱を通して大気微量成分の組成に変化を引き起こす。この過程を理解するため、科学衛星による電磁波・粒子観測と数値実験により降り込み粒子を推定し、大気微量成分の変動現象への理解へとつなげる。
我が国の「あらせ」衛星の電磁波計測の結果に基づき、電子降り込みを引き起こすコーラス波動の波動強度・伝搬特性を統計的に明らかにした。また、あらせ衛星と、北欧に設置された欧州非干渉散乱レーダー及びオーロラ観測ネットワークによる共同観測により、コーラスが引き起こすオーロラに伴い、高層大気の異常電離が高度60kmまで起きているイベントを発見した。このイベントの条件で数値実験を行った結果、中間圏のオゾンが10%以上減少することが明らかとなった。

成果発表

  1. Miyoshi, Y., Hosokawa, K., Kurita, S. et al. Penetration of MeV electrons into the mesosphere accompanying pulsating aurorae. Sci Rep 11, 13724 (2021). https://doi.org/10.1038/s41598-021-92611-3.

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