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ミッション5-3「日常生活における宇宙・大気・地上間の連関性」
令和2年度の活動

更新日: 2022/05/27

課題1 衛星測位システム(GNSS)を用いた大気圏の変動特性の解明

研究代表者:矢吹正教(京都大学 生存圏研究所)
共同研究者:津田敏隆、橋口浩之(京都大学 生存圏研究所)

本研究では、汎地球測位衛星システム(GNSS)の測位データを大気計測に用いる「GNSS気象学」に関する実証観測とデータ解析を通じて、降水過程や気候変動の理解に資する研究を推進する。令和2年度は、信楽町を中心に展開したGNSS稠密観測網とラマンライダーによる観測の解析、およびインドネシア・EARサイトに設置した準天頂衛星(QZSS)対応受信機による観測を実施した。また、過去データ解析から、局所的な降水が観測されたときの水蒸気時空間変動の特徴について調べた。

図 GNSS稠密観測網で捉えた豪雨発生前後の水蒸気水平分布の変化の例 (滋賀県甲賀市信楽町, 2018.7.2 16:00-16:40JST)

 

成果発表

  1. Yabuki, M. et al., A Raman Lidar with a Deep Ultraviolet Laser for Continuous Water Vapor Profiling in the Atmospheric Boundary Layer, EPJ Web of Conferences 237, 03001, 2020. doi:10.1051/epjconf/202023703001
  2. Fujita, Y. et al., Ground-based calibration of rotational Raman lidar for profiling atmospheric temperature, AGU fall meeting 2020, December 1-17, 2020.
  3. 矢吹他, GNSS稠密ネットワークおよびラマンライダーを用いた信楽上空の水蒸気時空間変動の観測, 第14回MUレーダー・赤道大気レーダーシンポジウム, 2020年9月14-15日.

課題2 GPSを用いた電離圏3次元トモグラフィ

研究代表者:山本 衛(京都大学 生存圏研究所)
共同研究者:齊藤昭則(京都大学 大学院理学研究科)、斉藤 享(電子航法研究所) 

GPSは全世界における測位サービスとして定着している。GPSシステムは、周波数の違う2つの電波の伝搬の差から電離圏中の全電子数(Total Electron Consistent: TEC)が観測できる。我が国では国土地理院による電子基準点の観測網GEONETが利用でき、TEC 観測は電離圏の研究に広く用いられてきた。本課題では、理学研究科および電子航法研究所と共同して推進している、本研究は、電子密度の3次元分布を明らかにするトモグラフィ解析の高度化を目指す。リアルタイム・トモグラフィ解析を順調に継続する一方、GEONETの過去データを用いた大量解析にも取り組んできた。今年度は、イオノゾンデなど他の観測データを取り入れた異種データ混在の新しいトモグラフィ解析手法を開発し、磁気嵐時の電離圏変動を明らかにする等の良好な結果を得た。台湾・韓国の研究者とも交流を継続中であり、両地域のGPS観測データを活用した解析の拡大にも取り組んでいる。最近では、GPS以外の衛星測位システム(総称名GNSS)からの信号も受信できる極めて安価なGNSS受信機が出現してきた。これを用いたTEC観測用の新しいGNSS受信システムの開発を進めている。

左図:GPS-TECトモグラフィの概念図、右図:3次元リアルタイム・トモグラフィ解析の例

成果発表

  1. Ssessanga, N., M., Yamamoto, S., Saito, A., Saito, M., Nishioka, Complementing regional ground GNSS-STEC computerized ionospheric tomography (CIT) with ionosonde data assimilation, GPS solutions, 25:93, 2021, doi:10.1007/s10291-021-01133-y.
  2. Ssessanga, N. M., M. Yamamoto, S. Saito, Assessing the performance of a Northeast Asia Japan-cantered 3-D ionosphere specification technique during the 2015 St. Patrick’s day solar storm, EPS, Submitted, 2021.
  3. 山本 衛, 斎藤 享, 衛星=地上間の電離圏全電子数観測の開発状況, 第148回地球電磁気・地球惑星圏学会講演会, 2020年11月1-4日.

課題3 日本の電力網を流れる地磁気誘導電流(GIC)計算モデルの開発

研究代表者:海老原祐輔(京都大学 生存圏研究所)
共同研究者:大村善治(京都大学生存圏研究所)、後藤忠徳(京都大学工学研究科)、中村紗都子(京都大学生存圏研究所)、亘慎一(情報通信研究機構)、菊池崇(名古屋大学名誉教授)、田中高史(九州大学名誉教授)、藤田茂(気象大学校)

太陽でコロナ質量放出現象(CME) が起こると地球では磁気嵐が発生することがある。このとき宇宙空間を流れる大電流によって送電網に地磁気誘導電流(GIC)と呼ばれる電流が流れる。日本の送電網を流れるGICを物理的に正しくモデル化するため、宇宙空間を流れる電流が日本列島に誘導する電場(GIE)を有限差分時間領域(FDTD)法によって解いた。アメリカ海洋大気局(NOAA)の標高モデルと堆積層の厚さモデルに基づき、日本列島直下の電気伝導度分布(地殻比抵抗構造)を陸地、海水、堆積層に分類し、各々について電気伝導度を仮定した。187 kV以上の電圧階級を持つ全国の送電網をモデル化し、602カ所の変電所等を流れるGICを地電場の方向の関数として求め、GICが流れやすい地電場の方向を図示した。東京周辺の変電所で測定している地磁気誘導電流の解析を行い、SSC/SI(地磁気嵐急始現象)、磁気嵐、SFE(太陽フレア効果)に対する応答特性を評価した (Watari et al., 2021)

成果発表

Watari, S., S. Nakamura, and Y. Ebihara, Measurement of geomagnetically induced current (GIC) around Tokyo, Japan, Earth, Planets and Space, in press, 2021.

課題4 MUレーダー・小型無人航空機(UAV)観測による大気乱流特性の国際共同研究

研究代表者:橋口浩之(京都大学生存圏研究所)
共同研究者:山本衛、矢吹正教(京都大学生存圏研究所)、Lakshmi Kantha, Dale Lawrence (University of Colorado, USA)、Hubert Luce (Toulon-Var Univ., France), Richard Wilson (LATMOS, CNRS, France)

乱流混合は熱や物質の鉛直輸送に寄与する重要なプロセスであり、これまで、MUレーダーを用いたイメージング(映像)観測により大気乱流の発生・発達・形成メカニズムや、メソ~総観規模現象との関連が研究されてきた。近年の小型無人航空機(Unmanned Aerial Vehicle; UAV)の進歩により、遠隔操作による上空の計測が従来よりも容易に行えるようになりつつあり、日米仏の国際共同研究により、2015~2017年の6月にコロラド大で開発された気象センサーを搭載した小型UAVとMUレーダーとの同時観測実験(ShUREX(Shigaraki, UAV-Radar Experiment)キャンペーン)を実施した。図はUAVが強い乱流中を水平飛行した時に得られた気温の周波数スペクトルを示す。-5/3乗則に従うスペクトルが得られており、風速スペクトルでも同様に-5/3乗則に従っていた。

 

UAV水平飛行で得られた気温の周波数スペクトル。赤線は傾き-5/3乗を示す。[Luce et al., 2019]

成果発表

Luce, H., L. Kantha, H. Hashiguchi, A. Doddi, D. Lawrence, and M. Yabuki, On the relationship between TKE dissipation rate and temperature structure function parameter in the convective boundary layer, J. Atmos. Sci., 77, 2311-2326, doi:10.1175/JAS-D-19-0274.1, 2020.

課題5 宇宙からの地球大気環境モニタリング

代表者氏名:塩谷雅人(京都大学生存圏研究所)
共同研究者:斉藤昭則(京都大学理学研究科)

地球を周回する衛星からのグローバルな大気観測は、地球環境変動を理解するために必須の情報源となっている。社会的あるいは科学的な要求を踏まえて、下層大気の変動に対して敏感な高層大気領域の熱的・力学的構造、さらには大気微量成分分布を高精度でモニタリングするための装置の検討をおこない、次世代の観測手段を提案する。
人の生存環境にとって、中層大気(成層圏+中間圏)領域の果たす役割は大きく、その熱的・力学的構造、さらに大気微量成分分布は人間活動による擾乱の影響を受けている。この大気領域については、2009-2010年にかけて国際宇宙ステーションに搭載された観測装置JEM/SMILESが、世界で始めて4K冷却による超高感度サブミリ波大気観測をおこなった。この技術を基礎として、次世代の大気環境モニタリングをおこなうにはどのような観測が必要なのかを検討する。

課題6 宇宙からの高エネルギー粒子降り込みと中性大気変動

代表者氏名:栗田怜(京都大学生存圏研究所)
共同研究者:小嶋浩嗣(京都大学生存圏研究所)、三好由純(名古屋大学宇宙地球環境研究所)、斉藤慎司(情報通信研究機構)

宇宙空間で自発的に放射される電磁波により、地球大気へ高エネルギーの粒子が降り込む。地球大気に降り込んだ粒子は超高層大気の異常電離・加熱を通して大気微量成分の組成に変化を引き起こす。この過程を理解するため、科学衛星による電磁波・粒子観測と数値実験により降り込み粒子を推定し、大気微量成分の変動現象への理解へとつなげる。
我が国の「あらせ」衛星の電磁波計測の結果に基づき、電子降り込みを引き起こすコーラス波動の波動強度・伝搬特性を統計的に明らかにした。また、コーラス波動による電子降り込みの数値実験を行い、オーロラ発光を担う数keVから、1MeVを超える電子が同時に降り込むことを示した。

成果発表

  1. Kurita, S. et al., Propagation characteristics of whistler mode chorus in the outer radiation belt deduced from the Arase observation, International Radio Science Union (URSI) GASS 2020.
  2. Miyoshi, Y., et al., Relativistic electron microbursts as high-energy tail of pulsating aurora electrons, Geophys. Res. Lett., 47, e2020GL090360, 2020. doi:10.1029/2020GL090360.

 

 

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