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ミッション3「宇宙生存環境」
令和3年度の活動

更新日: 2022/06/01

課題1  放射線帯の相対論的電子フラックス変動の研究

研究代表者 大村 善治(京都大学)

共同研究者 謝怡凱 (京都大学 生存圏研究所)

ホイッスラーモード・コーラス放射は地球磁気圏に捕捉された高エネルギー電子を極域大気へと降下させることは知られているが、衛星で観測されているような斜め伝搬コーラス波動をモデルとしてそれと相互作用する電子の軌道を追跡するテスト粒子シミュレーションにより、放射線帯の相対論的電子を含む高エネルギー電子が複数のコーラス放射とのランダウ共鳴およびサイクロトロン共鳴の二段階の共鳴過程を通じて効率の良くピッチ角散乱を受けて極域大気へと降下することを解明した。

 

1: コーラス放射による高エネルギー電子降下機構

成果発表

  1. Hsieh, Y.-K., Omura, Y., & Kubota, Y. (2022), Energetic electron precipitation induced by oblique whistler mode chorus emissions, Journal of Geophysical Research: Space Physics, 127, e2021JA029583. https://doi.org/10.1029/2021JA029583.

 

課題2    サブストーム(オーロラ嵐)の研究

研究代表者 海老原祐輔(京都大学)
共同研究者 田中高史 (九州大学 名誉教授)

サブストーム(オーロラ嵐)や磁気嵐など大規模な宇宙環境変動の原因は太陽風にある。磁気圏に取り込まれた太陽風由来のエネルギーは主に磁場エネルギーの形で磁気圏を伝わり、沿磁力線電流に導かれて極域電離圏に到達すると考えられる。グローバル電磁流体シミュレーションを用い、地球向きのエネルギー輸送を担うアルベン波(低周波の磁気流体波動)の波束の動きを追跡した。波束は背景のプラズマ運動に乗った系で磁力線方向に動くとした。結果を図2に示す。G1とG2は沿磁力線電流が生成していると考えられる領域で、ここでは太陽風及び磁気圏起源のプラズマが再結合したばかりの地球の磁力線を引っ張り、アルベン波を励起し、磁気圏を3次元的に貫く大規模な沿磁力線電流を生成していることが分かった。

図2:アルベン波の波束(短い円柱/packet)が地球に向かう様子。管は波束から伸びる磁力線を示している。

青色の領域ではプラズマが磁力線を引っ張っている。太陽は左下方向にある。

成果発表

  1. Ebihara, Y., & Tanaka, T. (2022). Where is Region 1 field-aligned current generated? Journal of Geophysical Research: Space Physics, 127, e2021JA029991. https://doi.org/10.1029/2021JA029991

 

課題3 低軌道宇宙環境耐性をもった木質系炭素膜の微細構造

研究代表者 畑 俊充(京都大学)
共同研究者 小嶋浩嗣 (京都大学)

宇宙環境における原子状酸素(AO)照射による材料表面の劣化と材料燃焼の間の類似性から、宇宙環境利用に向けた木質由来炭素材料を用いた難酸化材料の構造について調べた。AO照射がSi化合物(シルセキオキサン)を含有した木質由来炭素(700℃で炭化したろ紙)の燃焼性に対する影響を調べAO照射に対する抵抗性を評価したところ、AO照射による削られ量が大きくなるほど材料の燃焼性が高いという結果となった。シルセキオキサンを33%含む材料よりも炭化ろ紙のみの方が、AOによる表面の削られ量が低く抑えられている点が注目すべき点である。

図3 :AOにより削られた木質由来炭素表面

課題4 月面上の人間活動に影響を与える帯電環境とその計測手法に関する研究

研究代表者 栗田 怜(京都大学)
共同研究者 小嶋浩嗣(京都大学)、臼井英之(神戸大学)、三宅洋平(神戸大学)

月表面での帯電状況や周辺電磁環境は、太陽活動の影響を受けて大きく変化する。今後、人類活動が月へ拡大していく中、月周辺での帯電・電磁現象を測定する方法の検討・確立は、月周辺における人類活動において重要な意味をもつ。本研究では、月面を走行するローバーなどに搭載するため自立式であり、直流から交流にわたる、広い周波数帯域の電界を測定が可能なセンサーの開発を目指している。今年度は、センサーの試作版を作成し、標準アンテナと同時に放送波を受信することにより、製作したセンサーの交流電界に対する感度を調べた(図4)。 その結果、MHz帯において感度が低下する傾向が見られたが、交流電界を測定するのに十分な特性を有する。

図4 感度を測定する実験中の、製作した新開発センサー(左)と、標準アンテナ(右)

課題5 新規材料の宇宙利用可能性に関する研究(UFB、農業利用)

研究代表者 上田 義勝(京都大学 生存圏研究所)
共同研究者 吉川 潔(京都大学)、飯嶋 盛雄(近畿大学)、廣岡 義博(近畿大学)

ウルトラファインバブル(UFB, 1μm未満の気泡)を水中に発生させ、その微細気泡特性の基礎特性計測と、原理解明及び応用利用への研究を進めている。2021年度においては、貧栄養状態におけるUFBを用いた作物成長の違いについて、試験栽培と現地圃場試験を行っている。特にUFBが水中に存在することにより、作物成長がより進み、新規材料としてのUFBの利用可能性を示すことが出来た。

図5: 小麦の成長の違い(nUFB:UFB無し, UFB:UFB有り)

成果発表

  1. M. Iijima, K. Yamashita, Y. Hirooka, Y. Ueda, K. Yamane and C. Kamimura, Ultrafine bubbles alleviated osmotic stress in soybean seedlings, Plant Production Science, 2021/12, 10.1080/1343943X.2021.2021094
  2. M. Iijima, K. Yamashita, Y. Hirooka, Y. Ueda, K. Yamane and C. Kamimura, Promotive or suppressive effects of ultrafine bubbles on crop growth depended on bubble concentration and crop species,Plant Production Science 2021, 10.1080/1343943X.2021.1960175

 

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